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その日のうちに足が速くなる!?一流コーチのトレーニングメソッド【TEAM HEROS】

朝倉 奈緒

“スプリント・コーチ”として、プロ野球/サッカー選手から小学生を中心とした子供たちに走り方の指導をし、その成果が注目されている陸上選手・秋本真吾さん。一児の父になったばかりという、責任とやる気のエネルギーに満ちたスプリンターに、目指す先のゴールと道筋について聞いた。

“縄跳び”が速く走るベース作りのヒントに

現在、「人の足を速くする」ことが本業である秋本さん。「子供たちに『速く走る方法を知っていますか?』と聞くと、ほとんどの子が手をあげて『腕を振る』『足を高くあげる』などと答えてくれますが、それは全部正解です。ですが、姿勢が崩れた状態でそれらのことをいくらやっても地面に上手に力が加わらず、意味がなくなってしまうので、まずは『よい姿勢を作ること』からトレーニングを始めます。」

秋本さんの理論では、足を速くするための基本的な要素はふたつ。ひとつは「足の回転を速くすること」もうひとつは「一歩の歩幅を広げることこれらがかけ算となってスピードが高まっていく。秋本さんは現役時代、この領域を高めるための練習メニューを自ら作っていた。

「年間で、自分が目指すタイムを設定して、それに足りないものは何か分析し、どのような練習をどのタイミングで入れていくか、全て自分で管理していました。その経験が、今の”指導者”という立場になって、多いに役立っていると思います。」とりわけ練習項目が多岐に渡る『ハードル』という種目において、自身で練習メニューを組み立てていたことが、今の仕事の成果に繋がっているようだ。

「つま先力トレーニング」の単行本も出版されている秋本さん。“正しい姿勢” に続き、”つま先” を意識して走ることが重要なポイントとのこと。「先ほどの理論で足を速くしようとした場合、人は歩幅を広げようとすると大股になり、踵から地面に接地するようになります。そうすると、自然と足の回転は遅くなってしまう。足を速く動かす動作は、基本”つま先” で行うものです。」

「“走り“と“歩き”の大きな違いは、走っているときは空中に浮いている瞬間があるということ。つまり「走る」動作というのは、ジャンプをずっと連続して繰り返しているような動きになる。ジャンプが上手にできるようになれば、歩幅を広げることに繋がる。そこで、”縄跳び” が大きなヒントになりました。」走りの指導をする子供たちには、縄跳びを積極的に勧めているという。縄跳びはつま先で地面に接地し、ふくらはぎの筋肉も鍛えられる有効なトレーニング方法なのだ。

「大分県の幼稚園でかけっこ教室をやらせてもらったことがあるんですが、その園の縄跳び大会で、1位の年長さんの子が、一度も引っかからずに8000回跳べるっていうんですよ。その子の走りをずっと見ていたのですが、姿勢もきれいだし、飛び跳ねるように走っていた。その幼稚園は体育に力を入れていて縄跳びは日常的に取り入れられていたのですが、園児はみんな運動能力が高くて、足が速かったんですよね」

0.01のライセンス化を目指して

「足を速くするスプリント・コーチのプロ集団」を作りたいと思っていた矢先、4×400mリレー代表オリンピック4位入賞者の伊藤友広氏と描くビジョンが一致し、スタートしたプロジェクト「0.01」。陸上競技においてタイムの最小単位である“0.01”が「世界を変える」と掲げる彼らのプロジェクトの中身とは一体どのようなものか。

「小学生などを指導する“スクール事業”では、僕や伊藤が稼働せず、僕らのようなスプリント・コーチを目指す選手を徹底的に研修して、独自のプログラムを渡し、派遣する。というモデルで動いています。”トップアスリート事業”では、研修中のコーチをJリーガーやプロ野球選手の指導の現場に連れていき、ゆくゆくは自分たちと同じ指導が様々な競技で同時進行できるように進めている段階です。

最終的には、0.01の走り方のプログラムをライセンス化し、全国のスプリント・コーチを目指す人に取得してもらいたい。例えば総合型の地域スポーツと連携したり、学校の部活動に、0.01のライセンスを持つ人が指導しにいく、ということが実現できれば、僕らの理論がスケールしていく。そんなモデルを描きながら走っているところです。」

0.01のプログラムで走りの指導を受けることのできる人たちが増えれば、陸上競技に限らず、全スポーツ競技において、日本がレベルアップできるに違いない。

次に興味があるのは、伝え方という“教育”の部分

「足を速くするプログラムに関しては、もう自信があります。」と言い切る秋本さん。今はそれをどう伝えるか、指導を受ける子供たちをどう教育していくかに強い興味があるという。

「子供たちは鬼ごっこやリレーといったメニューを出せば喜びますが、楽しいだけだと、記憶に残らない。あくまで勉強をする場として、いかに飽きずに学んでもらうか。そこが今一番意識しているところですね。」

今や年間1万人以上の小学生を相手に走りの指導をする秋本さんだが、始めは渋谷区の90周年事業の一貫で、区内の小中学校に派遣されたのがきっかけ。その後、まずは実績作りにと、学校を訪れるたびに指導の様子をSNSにアップしたり、HPを開設するなどして、自身のブランディングに磨きをかけた。

陸上選手が引退してからのセカンドキャリアにはこんな生き方があるんだというロールモデルになれたらいいな。」と秋本さん。セカンドキャリアとして、0.01のような仕事の需要が増えれば、引退したアスリートの活躍の場がより広がることだろう。

0.01プロジェクトのひとつ、小学生向け「かけっこ教室」の様子

「速く走る」指導をした先に発見したもの

マスターズ陸上大会に出場したり、自らスパイクを履いてサッカーをする秋本さん。現役であり続けることで、自身も学び続けることができるという。「10年先はまだ走っていますか?」と質問すると、「走りが速くなったことによって、子供からトップアスリートまで、色んな人たちが喜んでくれたことが何より嬉しい。人がどう変わっていくか、自分が関わった人がどう変化したか、ということに喜びを感じていることに気がついたんです。」

走りを教えることは手段でしかない。人が幸せになってくれることにやりがいを感じる。将来は、もっと違う分野で人を幸せにする“指導“をしているかもしれないことを秋本さんはほのめかす。

「義足の選手に走り方の指導をしたこともあるんですが、パラスポーツの可能性って、競技においてものすごく高いものを持っている。このまま義足や技術が発達していけば、パラアスリートのスピードが、健常者を抜く時代もすぐだと思います。特に陸上競技においてはもっと面白くなるはず。ワクワクしますね。」秋本さん率いる0.01はじめ、指導を受けた小学生や最新技術の義足を手にしたパラ陸上競技選手たちが、今後もっとスポーツ界を多様化させ、魅力的なものにしてくれるに違いない。

 

秋本真吾
1982年4月7日 183cm/70kg 福島県出身。2012年まで400mハードルのプロ陸上選手として活躍。アテネ、ロンドンオリンピックの選考会をはじめ、ヘルシンキ、大阪、ベルリン、韓国世界陸上の選考会に出場。オリンピック強化指定選手にも選出。当時の200mハードルアジア最高記録,日本最高記録,学生最高記録を樹立。ハードル選手でありながら100mのベストタイムは10秒44。2013年からスプリントコーチとしてプロ野球球団、Jリーグクラブ所属選手、アメリカンフットボール、ラグビーなど多くのスポーツ選手に走り方の指導を展開。2013年に地元、福島県「大熊町」のために被災地支援団体「ARIGATO OKUMA」を立ち上げ、大熊町の子供たちへのスポーツ支援、キャリア支援を行う。2015年にNIKE RUNNING EXPERT / NIKE RUNNING COACHに就任。

(text: 朝倉 奈緒)

(photo: 壬生マリコ)

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間違いなく世界初!「義足の図書館」が遂にオープン

中村竜也 -R.G.C

義足歩行者が自らに合った競技用義足(=板バネ)やひざ継手を試せる場所があったらという思いから、Xiborgを率いるエンジニア・遠藤謙さんや、アスリート、義肢装具士たちが中心となり、クラウドファンディングサービス“Ready for”で資金を募った「義足の図書館」が遂に、2017年10月15日、新豊洲Brilliaランニングスタジアム内にオープンした。

新豊洲Brilliaランニングスタジアム。

1本あたり約20~60万円と高価な板バネと、競技用義足の装着に必要なひざ継手などの部品を豊富に取り揃え、本棚のように並んでいる。また壁には、今回この「義足の図書館」に出資した方々の名前が全て記載してある。

セレモニーは遠藤謙さんから「義足の図書館」の利用の仕方や、今後の展開への思いを込めた挨拶から始まった。
「多くの義足ユーザーの方々に、もう一度走る喜びを与えられたらなという気持ちはもちろんですが、それだけではなく、多くの方たちの希望へとつながる場所としてや、義肢装具士さんたちの情報交換の場として活用していただけたらいいなと思っています」。

 山下千絵選手が、競技用義足を実際に装着し、ランニングのデモンストレーションを行った。今までは、歩行用義足でテニスを続けてきた彼女だが、競技用義足と出会ったことで、もう一度走る喜びを実感したという。

佐藤圭太選手や、「義足の図書館」を作るきっかけにもなった斎藤暖太(はるた)くんや義肢装具士の沖野敦郎さんが参加し、出資者からの質疑応答も行われた。

気になる利用方法は、1回500円と施設使用料を払い、Ottobock社(ドイツ製)とOssur社(アイスランド製)の子供用から大人用の計24本の中から選び着用。

基本的には義肢装具士は利用者自身で装着しなければならないので、自分で出来ない方は、義肢装具士の同伴が必要となってくる。ただ、それが難しい方のために、月一回開催している“Monthly Run”に参加すれば、装着の仕方を学べるとのこと。

多くの人に走る喜びを与えたいという思いが、この世界初となる「義足の図書館」を完成させた。ここをきっかけに遠藤さんは今後、義足の移動図書館のようなこともやってみたいとも話している。こんな素敵な笑顔になれる場所が、もっともっと増えていくことを願ってやまない。

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 河村香奈子)

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