福祉 WELFARE

選手の緊張まで目で見える!?パナソニックが観戦スタイルを進化させる【2020東京を支える企業】

宮本さおり

エンターテイメント性が強くなりはじめているスポーツ観戦。そのスピードを加速させる原動力には、技術の力が大きく関わる。2020東京では、これからのスポーツ観戦を変える技術が導入されることになりそうだ。立役者となるのがパナソニック株式会社。今年、スポーツ関連事業の強化を発表、日本から世界のスポーツ観戦を変革する取り組みをはじめようとしているのだ。会場を訪れる人はもちろん、テレビで観戦する人までもが臨場感や興奮と感動を感じられる技術とは、どのようなものなのか。編集部はパナソニックの最新技術を紹介する一般非公開の展示エリアへ潜入、一足先にオリンピック・パラリンピックに使われる技術を体験してきた。

7000台の車いすが街に現れる

オリンピック・パラリンピックがなければ、開発がこれほど早く進まなかったかもしれません。2020東京のその先へ繋がる開発を進めたい」と話すのは、同社パラリンピック統括部部長の内田賀文氏。交通案内や、車いす利用者への対応など、技術が支えるオリンピック・パラリンピックは、会場への導線からはじまる。

「オリンピック・パラリンピックでは、会場に占める障がい者用観客席の割合が決まっています。各競技場ともオリンピックでは0.75%、パラリンピックでは1.25%。これを基に算出すると、パラリンピック開催中は1日当たり約7000台の車いす利用者が街中に繰り出す計算になります」(内田氏)。

バリアフリーな街にするためには、いったい何が必要なのか、そこにパナソニックは技術的観点から視線を注ぐ。「例えば、空の玄関口となる空港、わたしたちはベンチャー企業のWHILL株式会社と協乗し自走型電動車いすを提供しようと考えています」。

スタイリッシュさと手軽さでシェアを広げはじめているWHILL社製電動車いすは、今までにない斬新なデザイン性に加えて、独自の開発により、多少の段差も乗り越えられ、小回りも抜群。操作は手もとのレバーのみ。誰でも簡単に操縦が可能な乗り物。この電動車いすを使った実証実験が羽田空港ではじまっているのだ。

専用のアプリを通して自身のスマホと連動させると、ボタン一つで電動車いすが迎えにくるようにするという。空港内の行き先を選択すれば自動的に運んでくれるというものだ。車いす利用者が困るのがスーツケースなど大きな荷物の移動だが、これには、電動車いすに追随して隊列走行するカートを付ける。

「これまで、お申し出があれば航空会社や空港の職員が移動のお手伝いをしていました。しかし、こうして手伝ってもらうことに気を使われる方もいます。気兼ねなく、自分の意志で、自由に行動できる一助になればと思います」と内田氏。このシステムを通して、車いす利用者が「もっと外へ出かけたくなる」そんな仕組みをつくり出そうとしている。超高齢化社会が目前に迫った日本、今後は車いす利用者の増加が見込まれる。パラリンピックを契機に誰もが外出を楽しめるバリアフリーの街にどこまで近づけるか、未来を変える開発が動き出している。 

最高のエンターテイメントへ

「観戦」の分野では、選手の見えない緊張をとらえる技術がスポーツを大きく変えはじめている。その一つが、顔の皮膚の微妙な色の変化から心拍数を推定する非接触バイタルセンシング技術。医大との共同研究で医療機器と同等の精度が認められた。今年行われたゴルフの大会「パナソニックオープン」で、はじめて実証実験が行われ、ティーショットを打つ選手の冷静な表情とは裏腹に、意外にも、映し出された心拍数は上昇しているという場面もしばしばみられたのだ。選手の内面をも観戦できる、そんな時代の到来は、今までスポーツ観戦に興味を持たなかった人たちの注目もあつめ、観戦者の幅を広げている。 

臨場感たっぷりでスーパープレーを楽しめるVOGOも、これからのスポーツ観戦をよりエンターテイメント性の強いものへと昇華させるシステムの一つだろう。個人のスマホに専用のアプリをダウンロードすれば、瀬戸際のせめぎ合いも見逃すことなく観戦することができる。

「例えば、ブラインドサッカーの場合、普通に観戦したのでは迫力ある壁際でのボールの奪い合いが見えづらい。しかし、VOGOシステムを使えば見ていただけるようになります」(内田氏)。VOGOは個人のスマホに複数の映像配信ができるため、カメラアングルを切り替えたり、気になったプレーを巻き戻して見るなど、それぞれの楽しみ方が可能になるのだ。もはや、スポーツ観戦はただプレーを見るという領域を大きく超えるものになりはじめた。プレーヤーの内面を観察する、プレーを自分なりに解析する、そんな楽しみ方もできるだろう。

「パナソニックは国内企業ではじめてオリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーとなった会社です。特にパラリンピックには思い入れがあります。私たちの技術でパラリンピック会場を満席にする、それが東京2020での大きな目標です」と語る内田氏。3年後のオリンピック・パラリンピックが、日本の技術を世界に知らせ、あらゆる角度のバリアフリー社会に向けて技術の開発は日夜続いている。

(text: 宮本さおり)

(photo: 壬生マリコ)

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福祉 WELFARE

やさしさのバトンを繋げ世界を変える。
一般社団法人PLAYERS「&HAND」【the innovator】

中村竜也 -R.G.C

誰もがいつでも助けを求められ、そして誰もが手助けをできる社会の実現を目指し、一般社団法人PLAYERSが展開する「&HAND」。主にBEACONデバイスやLINEといった今身近にあるテクノロジーを活用しながら、身体・精神的な不安や困難を抱えた人と、手助けをしたい人をマッチングさせ、具体的な行動をサポートすることを目的としている注目のサービスなのだ。

「困っている人に手(ハンド)を差し伸べ、取り合われた手と手から安堵(アンド)が広がっていく」、そんな世界を実現したいという想いから名付けられた「&HAND」だが、具体的にどのようなマッチングサービスを行っているのか、このサービスを始めた理由とともに一般社団法人PLAYERS主宰タキザワケイタさんにお話を伺った。

「私の妻が妊娠中に切迫流産になってしまい、自宅で安静にしていなくてはいけないくなってしまったんですね。当時は、引越しをしたばかりだったので、主治医に診てもらうためには長い時間電車に乗らなくていけない上に、帰りは帰宅ラッシュの時間帯という状況。私としては当然、妻を座らせてあげたいですよね。でもなかなかそうはできない状況で、こう言ったら失礼かもしれませんが、そういう雰囲気ではないサラリーマンの方がすごくスマートに席を譲ってくれて助かった経験があったんです。

そして私自身も妊婦さんが付けるマタニティーマークというものをあまり知らなかったことで、席を譲れていなかったのに気付いたタイミングで、自分の娘が妊婦になった時に、まだ今のような社会だと恥ずかしいなと感じ、それを変えたいと思ったことがきっかけです」そう語ってくれたのは、一般社団法人PLAYERSのタキザワケイタさん。

「それから改めてマタニティーマークのことを詳しく調べっていったんですね。そんななか気付いたのが、グーグルでこのワード検索すると、関連ワードとして “嫌がらせ” とか “嫌い” “付けるな” といったようなネガティブなワードが最初に出てくるんです。これっておかしいじゃないですか。こういった風潮は改善しなくてはいけないですよね」

そして生まれたスマートマタニティーマーク

スマートマタニティーマークと専用アプリ。

実体験の中から生まれたこのアイデアを具現化するためには、なぜマタニティーマークに関するネガティブなイメージが生まれてしまうのか、また、知識のなさから生まれる無関心を改善する必要があった。

「スマートマタニティーマークを作っていくなかで、電車やバスの座席に座るとほとんどの方がスマートフォンをいじるので、妊婦さんの存在や、マタニティーマークに気付かないということに注目しました。そして自らがそうだったように、マタニティーマークに関する正しい情報が届いていない。このふたつを解決すべき課題としてまずあげました。そこから生まれたのが『みんなの優しさを見える化しよう」というコンセプト。

どういうことかと言うと、よく交番にある今日事故が何件ありましたという掲示板のように、今日席譲りが何件ありましたというのを可視化させる。それがあることで、席譲りまでいかなかったとしても、安心が生まれるのではないかと考えたのです。それを元に完成したのが、このアプリとデバイスになります。マタニティーマークがIoTになったということです」

「使い方としましては、まずこのデバイス(左)を妊婦さんに付けてもらいます。そして、電車に乗り立っているのが辛くなった時にデバイスのボタンを押す。そうすると半径2メートルくらいにいるサポーターの方にプッシュ通知が届きます。席を譲れる場合は、譲りますを押すとマッチングが出来るといったシステムです。譲る側にも「譲ります画面」というのがありまして、それを見せることで、声を掛けなくても、この人がサポーターになっているのが分かるというシステムです」



LINEを利用したマッチングサービス

やさしさのバリアフリーを目指す必要性

困っている人がいたら手を差し伸べる。こんなにも当たり前のことが、いつのことからか出来ない世の中になってしまった。そこには気づいているのに誰かがやるだろうという日本人特有の意識が根深く我々の中に刷り込まれてしまっているからではないだろうか。

「席を譲れない理由の一位が、妊婦さんなのか少しふくよかな方なのか分からないというのが本当にあるんです(笑)。もし間違ったら失礼だから結果的に声を掛けないという。

そんなデータを踏まえた上で、鉄道博物館に置いてある中央線の車両を使い、新しいアプリの体験会ということで実証実験を一度やりました。もちろん来場者にこの仕組みのことは伝えていません。そして、参加者には優先席に座ってもらい、いつも通りにスマホをいじってくださいという形をとります。そこで、右手前にマタニティーマークを付けた妊婦さん。左手前にスマートマタニティーマークを付けた妊婦さんに立ってもらい、マーク自体と通知が来た時に気づくのかを実験したんです。

結果は、半数は顔が上がり、気付かなかった残りの半数についてもデバイスが光ることで94%の方が気付けました。ほぼ全員ということですよね。席を譲るってこと自体は大した行為ではないけれど、意外と出来ない方が多い。そう考えると、この仕組みで背中をちょっと押してあげ、成功体験をさせてあげることが重要なんだなと。

先ほども話したグーグルの検索結果にネガティブな内容が出てきてしまうようなことは、無くさなくてはいけないので、最終的にこの仕組みがなくても手助けし合えるような社会を目指したいという問題提起を我々はしているのです。自ら考え、意見を表明することが本質でなければいけないと考えています」

今後は新たなサービスの展開も。

「今、ボタンを押した感がないようにぎゅっと握るだけというコンセプトで、聴覚障がい者向けの新しいサービスをLINEと連携させ作っていて、それがこの卵型のデバイスです。これは押すという行為をなくすことで、より使いやすくなるのではないかと思い、この形状になりました。助けを必要としている人が、どう気軽に知らせることが出来るかに重きを置くことが、今後は課題になってくると考えています。サポーターが助ける前に、助けを求められないと助けられないので。

このような我々が進めているサービスを起点とし、東京2020までに東京圏内のほとんどの人がサポーターになってもらえるよう、これをインフラ化することを目標として動いています。日本が誇るおもてなしの心を、外国人の方に体験をしてもらえたら素敵じゃないですか」

ある人からすれば、席を譲るくらいなんてことないかもしれないが、今やその考えの持ち主こそマイノリティーなんだとタキザワさんと話しをしていて感じた。絶対にそんな図式であってはいけないのだ。やさしさからやさしさが生まれる社会を実現させることで、いずれこのようなサービスが必要としなくなる世界が、まさに理想と言えるのかもしれない。

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 壬生マリコ)

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