テクノロジー TECHNOLOGY

遂に発表された『bespo』と『MIGRA』。 シーティングポジションの最適化は、新時代へ

長谷川茂雄

株式会社RDSが手掛けた新たなプロダクト『bespo』と『MIGRA』『CORE-Ler』の3つが「国際福祉機器展」にてお披露目された。『bespo』は、車いす使用時のあらゆる身体データを計測し、シーティングポジションの最適解を導き出すシミュレーター、『MIGRA』は、それらのデータを元に、実際にフィット具合を確認できる“設定可変型”車いすだ。両者は、ともにデータを共有し、常にユーザーのパファーマンスを最大化できる。『CORE-Ler』は、人の歩き方から認知症などの傾向を読みとるものだ。いずれのプロダクトもさまざまな数値の計測とデータの可視化によって、これまで難しいとされていたことを可能にすることに挑戦した。RDS 代表・杉原行里にこれらプロダクトの解説を仰ぎつつ、『bespo』のデモンストレーションに参加した元パラリンピアン・根木慎志氏にもお話を伺った。

SS01より間口が広く、
対応力が高い、それが『bespo』

RDSが、パラアスリート・伊藤智也氏と二人三脚で車いすのシーティングポジションを研究し、その最適解を導き出すシミュレーター『SS01』を完成させたのは2019年。

それをブラッシュアップさせるべく、国立障害者リハビリテーションセンター研究所(以下:国リハ)や千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)との共同研究を推し進め、誕生したのが『bespo』だ。

会場でも一際目を引いたRDSのブース

杉原:SS01から大きく進化した点は、胸椎損傷、頚椎損傷の方を問わず対応可能になったこと、そしてトルクや重心位置の計測精度が圧倒的に上がったことです。

加えて、我々が独自に作ったウェルグラフというシステムと連携することで、データの取り込みがさらに効率化され、またデータをより多くの人と共有できるようになりました。

今後は、bespoが機械学習をして、ユーザーのデータを入れると、狙い撃ちで最適なシーティングポジションを割り出してくれる、そんな機能を見据えています。

根木慎志氏が『bespo』にて、シーティングポジションを測定

『SS01』は、ヴィジュアルインパクトに加えて実際のプロダクトも大きかったが、『bespo』はよりコンパクトになった印象がある。とはいえ近未来的なデザインは受け継がれ、洗練されている。

杉原:実際に、SS01の無駄やオーバースペックを取り除いて、よりスマートになりました。ハンドリムは取り外しが可能になって、後ろに3セット分付属しているので、ユーザーの好みやデータに合わせて組み替えも可能です。

一目でわかるバランスや数値に興味津々の根木氏

シーティングの角度、重心、バランス、リムを回した時のトルクなど、全てが瞬時に数値化される

“より一般ユーザー目線を重視した『SS01』”。『bespo』は、まさにそれを体現している。国リハで繰り返された臨床研究や知見を活かし、幅広いニーズに対応するために、細部まで改良されたのだ。

杉原:座面と背もたれを一定の角度を保ったまま倒すチルト角や、フットレストの角度の可動域も広がりました。『SS01』は、レースも意識していたので、どうしてもアスリート目線に偏った部分がありましたが、『bespo』は、一般ユーザーのちょっとした使い勝手まで配慮しています。

とはいえ、レースを目指したアスリートの方のパフォーマンス向上にも役立ちます。単純に用途の枠が広がったイメージですね。

初出展で気分も上がり気味の杉原

最適なシーティングポジションを見つけ出すことは、ユーザーが誰であれ有意義なことだ。間口が広がったことで、今後より一層、病院や施設での導入機会は増えそうだ。

重心やバランスを数値化して理解すれば、
車いすとの付き合い方は変わる

実際に『bespo』のデモンストレーションに参加した根木慎志氏に、体験した感想を伺った。

根木:18歳で車いすユーザーになってから約40年が経ちますが、これまで自分が最適だと思っていたシーティングポジションは、そうではなかったのかもしれません。今日は、それがわかっただけでも大きな収穫でした。自分の体の傾きやバランスが一目でわかるのは、大きなことだと感じました。

シドニーパラリンピック 車いすバスケットボールで日本代表のキャプテンを務めた根木氏。

車いすバスケの元競技者としても、これまで様々な車いすを使用してきた根木氏。『bespo』の登場によって、抽象論で語られた車いすの快適性が、今後数値化されていくことは革新的だと語る。

根木:アスリートの活用はもちろんですが、これだけ細かなデータが可視化できるのであれば、損傷の度合いや、年齢に合わせて具体的な調整ができる。まず、自分の現状を数値で知ることから始めて、それを改善すれば、生活の質は間違いなく上げていけると思います。

無駄を削ぎ落としたスタイリッシュなデザインの『MIGRA』

確かに『bespo』は、多くのユーザーの新たな快適性の基準を作る上で、重要な役割を担うかもしれない。

そして『bespo』で得たデータを、生活の中でリアルに活かすための実践的な車いすとして、同時に発表されたのが、『MIGRA』だ。

“設定可変型車いす”と呼ばれるこのプロダクトは、『bespo』と合わせて活用することで、ユーザーを強力にサポートする。

『bespo』と『MIGRA』がリンクすることで
データの精度は劇的に上がる

杉原:『bespo』よりも簡便的に、でもリッチデータを取ることもできるのが『MIGRA』です。画期的なのは、『bespo』で得たデータを元に、工具レスで設定を変化させてシーティングポジションが最適化することができるとことです。

より汎用性が高い車いすでありながら、『MIGRA』にもセンサーが内蔵されているため、重心の位置や加速度といった必要最小限のデータ採取ができる。

杉原:しかもユニークなのが、『MIGRA』にはアプリケーションが入っていまして、これまでご自身が乗っていた車いすを撮影すると、設定が可視化され、そのデータを元に『MIGRA』に反映することができるのです。

専用アプリをダウンロードしてタブレットで撮影をすれば、シーティングデータが得られる

加えて、『MIGRA』で取ったデータは、『bespo』と同じサーバに溜まっていく。すなわち両者のデータは共有され、違いにアップデートしながら、最適なシーティングポジションを見つけ出していくことができるのだ。

杉原:伊藤選手と『SS01』を作った時に、シミュレーションで出した数値をどこまで信頼していいのか? という疑問は常にありました。実機である『MIGRA』を作ったことで、その疑問は解消されると思っています。

『MIGRA』は、あらゆる調整が工具レスで行える構造

今後、『bespo』で取ったデータを『MIGRA』で実践し、その齟齬や『MIGRA』で得られたデータは『bespo』にフィードバックされる。それにより、シーティングポジションの最適解の精度は劇的に上がることになる。

杉原:『bespo』と『MIGRA』があれば、トライ&エラーに時間とコストがかかるリハビリの現場で、より有意義なデータ採取ができて、リハビリの新しいアイデアも生まれていくと考えています。

さらに、車いすというプロダクトを作る上での職人的な技術や感覚を数値として可視化することもできます。いわゆる“技術継承”にも活用ができれば本望ですね。

さらに会場で人目を惹いていたのが『CORE-Ler』。一見すると何をするものなのかが分からないが、説明を聞いた来場者は一様に感嘆の声を上げていた。

当日の会場で流されていた『CORE-Ler』のプロモーション映像。

 

会場には伊藤智也選手(一番左)も駆けつけた

多くの高齢者が悩まされる認知症。歩行解析から認知症リスクを読みとり、対策を行なうことで発症を遅らせることができるとすれば、健康寿命を伸ばすことも不可能ではない。また、車いすの最適なシーティングポジションを追求することは、ユーザーが質の高いライフスタイルを実践することの近道となる。『bespo』と『MIGRA』の登場により、その道筋はまた少し鮮明になった。

これまで、車いすの快適性は抽象的、感覚的なものとして捉えられていたが、それが数値により明確化することが当たり前になる。そんな未来は近いのかもしれない。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 増元幸司)

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最短3日で退院できる!手術支援ロボット「ダビンチ」の可能性に迫る

Yuka Shingai

2018年、大ヒットしたドラマ「ブラックペアン」には「スナイプ」と呼ばれる最新手術医療器具が登場したが、ロボットや機械が手術を補助する場面は今後ますます増えると推測される。なかでも、先端を行く存在として注目されているのが手術支援ロボット『ダビンチ』だ。ダビンチによる手術を行うニューハート・ワタナベ国際病院を訪ね、ロボット手術の現状や課題、医療の未来について話を伺った。

痛くない、血が出ない。
患者の負担が最低限で済むので、最短3日で退院できる。

米粒にすら文字が書ける精密さ。医療用ロボット「ダビンチ」とは? (http://hero-x.jp/movie/5178/)

まず最初に説明しておきたいのは、ダビンチとは厳密には「ロボット」ではなく「世界初、遠隔操作型の内視鏡器具」であるということ。

「現在はマニュアルを基にした医師の操作が必要ですが、いつか熟練した人の腕を再現できるような時代が来るのだろうという希望をこめて、ロボットと呼んでいるのかもしれません」

そう語るのは、ニューハート・ワタナベ国際病院 総長 兼 理事長の渡邊剛氏。ダビンチを使用した心臓弁の形成術や、心臓の血管を繋げるバイパス手術をはじめとした心臓血管外科領域において国内外での豊富な経験を誇り、日本ロボット外科学会の理事長も務める、まさにダビンチを広めた第一人者だ。

ニューハート・ワタナベ国際病院 総長 兼 理事長・渡邊剛氏

ダビンチと従来の内視鏡との違いは、まずその機能性と自由度の高さにあると言えるだろう。

3D内視鏡で捉えた患者の術野を立体画像として映し出すステレオビューワ、鉗子 (「ペアン」に代表されるように、手術や治療の際血管などの組織をつまむ器具のこと) や内視鏡カメラを自在に操作できるマスターコントローラ、瞬間的に鉗子や3D内視鏡の切り替えができるフットスイッチなどを駆使し、医師は患者から離れ、座った姿勢のまま遠隔操作で執刀する。

動かした手の幅を縮小して伝えるモーションスケール機能を使えば、手を5cm動かすと、鉗子は1cm動く仕組みに設定ができるし(この対比は2対1、3対1にも設定可能、手術前に設定した後、術中の状況に応じて変更することもできる)手ぶれ補正機能や左右を反転できる機能など、狭い空間での作業や、血管の縫合や切除なども精密さを求められる作業にも適している。

また、鉗子の種類も100種類ほど揃っており、臓器や目的に合わせた器具が発展しているそうだ。

「ダビンチを使うメリット、それは、まず患者さんの負担が少ないことです。患者さんの皮膚を1~2cmの幅で数か所切開し、そこから鉗子を挿入して手術をするので痛みも少ない、開放手術と比較すると出血が少ない、小さな傷口を開くだけなので、術後の疼痛が軽減され傷が早く治る、手術後に後遺症も残りにくく、手術痕が綺麗なことが特徴と言えるでしょう。当然、手術する部位や状態にもよりますが、最短であれば術後3日で退院して、仕事や学校に復帰することができますよ」(渡邊氏)

早く退院できるというのは、手術後回復を待っている間に体力が低下してしまい、そのまま寝たきりになってしまうことも多い高齢者の手術にも大きな効果が期待されるであろう。

ダビンチは2000年に米国で誕生した。当時、世界で初めての内視鏡下冠動脈バイパス術を行った渡邊氏は、いつかダビンチを使って心臓の手術を行いたいと考えていた。

大学への交渉や文部科学省からの資金拠出を経て、渡邊氏が日本国内ではじめてダビンチを使った手術を行ったのは、金沢大学と東京医大で教授職に就いていた2005年のこと。2009年に先進医療として認定されるまでは、研究費でダビンチによる手術を行うなど、試行錯誤を重ねながらもチーム ワタナベは2005年12月から2018年10月にいたるまで、553件もの手術を実施してきた。

そして、2014年に開業したニューハート・ワタナベ国際病院では弁形成術をはじめとして、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、心臓腫瘍などの心臓手術のほか、国内で唯一のダビンチによる甲状腺手術も行っている。

「年間、弁形成の手術が4000例ほどあるなかで、私たちが担当しているのはその5%、200件ほど。シェアという意味では大きいですが、保険適用がスタートしたのは2018年の4月とごく最近のこと。認知が広がっていくのはこれからではないかと考えています」

医師の腕が手術のクオリティを左右する。
誰にでも扱える万能なロボットではない。

元々、心臓外科の手術用で始まったダビンチ、現在アメリカでは2500台ほど導入されており、そのなかでも泌尿器科の手術の8割以上はダビンチで行われている。この15年で、開放手術の件数とは逆転現象が起こったほどだ。一方、日本に入ってきたダビンチは500台ほどで、泌尿器科での件数はようやく6割に届く程度と言われている。

患者数や医療制度は国ごとに異なり、一般化することは難しいながらも、これまで日本での普及がなかなか進まなかった理由は、コストの問題と並んで、医師の腕が大きく左右される手術であることも大きく関係している。

「胸やお腹を大きく開けば、術部がよく見えるし、どこまで取るか、どう縛るかなど相談もしやすく標準化できます。しかしダビンチをはじめとした内視鏡手術は、ほぼ1人で手術を行うもので、手術時間にしても吻合技術 (心臓血管手術において血管等を繋ぎ合わせる技術のこと) にしても、医師の腕が手術のクオリティに大きく影響してしまいます。

ダビンチは誰でも使える万能なロボットだと思われることもありますが、結局は医師の判断や裁量によるところが大きく、誰が使ってもいいものではありませんし、新しい技術に挑戦するには勉強も臨床経験も必要です。たとえば車の運転がロクにできない人がF1カーを運転したらエンジンをかけることもままならないですよね。自分のかわりに手術を行ってくれるロボットではないですから、ダビンチを使って手術ができるようになるためには、まず外科医として一人前にならなければならない」(渡邊氏)

日本ロボット外科学会の
サーティフィケートが今後の判断基準になる

更なる認知の向上を目指すも、医療機関はもちろん広告を出すことはできず、インターネット上に患者さんの声を反映する際にも制約がある。

それでも、「日本に導入したものの責任として、安全に正しく広めることが必要だと感じています」と語る渡邊氏は医師の育成もかねて、日本ロボット外科学会を立ち上げた。経験や症例数に応じて、国際A、国際B、国内A、国内Bの4種類のライセンスを与え、認定証書を授与している。

「このサーティフィケートが今後、患者さんの判断基準にもなっていくと思います。より認知が広がっていけば、大腸がんならこの病院、甲状腺ならこの病院、と手術を受けるべき病院も分かって、後悔のない治療を受けられるのではないでしょうか」

まだ、件数は少ないものの、これからは産婦人科の手術での活躍に期待が集まっている。泌尿器などに比べると、産婦人科は臓器も病気の種類も多く、より多くの患者に安全な治療を施せる将来性にも満ちている。

日本に導入しようとした当初は、厚生労働省から薬事法承認が下りるまでのハードルが高かったダビンチも現在は第4世代まで進んでおり、川崎重工とシスメックスによる国産手術支援ロボット「メディカロイド」も2019年の販売に向けて開発が大詰めを迎えるなど、技術の進歩は止まらない。

今後、患者にとって当たり前の選択肢としてロボット手術がより発展していくことに期待したい。

(text: Yuka Shingai)

(photo: 河村香奈子)

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