対談 CONVERSATION

屈強なロボットに憧れた理由とは!?
“株式会社人機一体” 代表取締役社長・金岡博士【the innovator】前編

中村竜也 -R.G.C

男子たるもの、一度くらいは“巨大ロボット”に憧れた経験があるはず。自らが操縦席に乗り込み、生身の力では到底どうすることも出来ない問題を、桁外れの力ですんなりと解決していく。そんな幼少期に描いた憧れを今まさに実現させようとする人物こそ、“株式会社人機一体” 代表取締役社長・金岡博士である。そして今回は、HERO X編集長・杉原行里(あんり)が、マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)という独自の概念を始め、金岡博士が見据える未来を紐解くべく、その真意に切り込んだ。

ロボットの在るべき姿に革命を起こす

杉原:過去の金岡博士へのインタビューを読ませていただいていて、「ロボットの世界にパラダイムシフトを起こしたい」というすごく気になる一文があったのですが、具体的にはどのようなことでしょうか?

金岡博士:我々の技術的なベースはもちろんロボット工学にあります。そして、我々の技術のコアは、必ずしも単体のロボットを上手く作る技術ではありません。先ほど実際にご体験いただいたように、いかに人とロボットを繋ぐかというインタフェースの技術にコアがあります。我々は大学発ベンチャーですが、大学の研究という「軛」、すなわち厳密な新規性から解き放たれたことで、大部分は教科書レベルの枯れた技術を使い、それをベースにしつつも、人とロボットを繋ぐコア技術に注力して発展させていくことができるようになりました。

パラダイムシフトという点では、今まではロボットをいかに賢くしよう、器用にしようというロボット単体での視点だった部分を、人とロボットをひとつのシステムとして捉えた時に、何が出来るかを考え、技術というよりは人々の意識を変えていくという話だと思います。

指先から伝える直感的な操作力の指示で、パワーを増幅してスチール缶を潰している感覚を体験出来るロボット、“パワーエフェクタ ver.2.1”

杉原:その先に見える世界というのはすでに考えられているのですか?

金岡博士:人とロボットを繋ぐこと、人の外部身体として操ることの出来るロボットを作ることで、人という存在そのものを進化させたいと思っています。脳はもっと色々な機能を持っていて可能性があると思われるのに、その力を発揮するためのデバイスがない。人はこの肉体に閉じ込められていて、身体はいつも制約であり、自分がやろうとしていることを必ずしも全部できるわけではないですよね。

一方、知的な面については、IT機器が発展してきたこともあり、昔は大変な苦労をしていたようなことでも、今ではかなり色々なことが出来るようになりました。それと同じようなことを、フィジカルな面でも実現したいと考えています。我々の肉体は、人の脳の処理能力に合わせて出来ているというよりは、むしろ外部的な制約によって決められているので、人も動物として生きている以上、脳の潜在能力を使い切ることは不可能です。

ならば、脳の潜在的な能力に合わせ、体の方を作り変えたい。ただし、サイボーグといわれる工学的な意味での肉体改造や、ドーピングの類の医学的な意味での肉体の増強については、技術的な困難さに加え、グロテスクに見えるので、あまりそちらの方向には行きたくありません。

じゃあどうするんだと考えた時、サイボーグのように人に機械を組み込むのではなく、機械の体を準備し、密接なインターフェースを通して、人の感覚を全部機械側に移してしまえばいい。その一部を今日は体験していただきました。

スレーブ装置“MMSEBattroid ver.1.0”を操縦する編集長

金岡博士:人が主観的にロボットに憑依する、ロボットに「なる」ためには、人が物理的かつ直感的に操ることのできる外部身体としてのデバイスをしっかりと作り込むことが必要です。一旦繋いでしまえば、それは人の身体の一部ですからね。その機能を高めていけば、今まで活用していなかった人の潜在能力が使えるようになるんじゃないか。人の可能性を拓くためのツールとしてのロボットデバイスを作ることが、我々の本当の目的です。

杉原:人が持っている身体能力を、ロボティクスをツールとして拡張していくという認識であっていますか?

金岡博士:おっしゃる通りです。

杉原:金岡博士の過去の記事の中でも、技術の進化について自動車を例に説明されていたと思うのですが、ロボットにおいてこのような技術の進化はどこまで広がるとお考えですか?

金岡博士:むしろその限界を見てみたいというのが、ひとつの夢です。最初は、我々が「人型重機」と表現する人型の巨大ロボットを作って、そこに憑依するという形をとると思います。人型にしている理由は、人型の方が主観的に憑依しやすいということと、その方がメディア受けがいいと思いまして(笑)。

杉原:間違い無いですね(笑)。

金岡博士:ただし、忘れてはならないのは、「人型重機」の開発は我々にとって一つのシンボルであるということ。つまり、我々の技術力と近未来の可能性を示す意味で非常に重要ですが、それは最初の入口に過ぎないということです。人の身体は、そもそも人型でなければならないのか、というところまで含めて可能性を探るというか。

ある意味、それさえも制約なのかもしれないし、手足がもっと多くてもいいかもしれない。場合によっては人型と全く異なる形の方が、もしかするといいのかもしれない。最終的に、人型からの「解脱」が進むことさえあるかもしれません。そこまで見てみたい。

杉原:ロボット倫理学は、日本という国や国民性を見た時に、意外と受け入れ難いものなのではないかと感じているのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?

金岡博士:確かに、人型からの「解脱」まで視野に入れた未来の可能性を探る上では、ロボット倫理学が必要かもしれません。ただ、遠い将来のことは分かりませんが、ここ10年程度のスパンでの我々の技術革新を考えれば、ロボット倫理学においてクリティカルな課題は生じないのではないかと思っています。もちろん法的な問題は沢山あって、それをひとつずつクリアしていかなくてはというのはあるのですが、新しい概念を導入しなければ解けない課題はほとんどありません。

これは、我々がロボット側の自律性を最小限に抑えるという方針の元に研究していて、最終的な責任はすべて操作する人の側にあるというのが前提だからです。そういう意味で、自動車と同じということです。

杉原:車、飛行機、船、ロボットみたいな感じで、人が乗って操作するツールがひとつ増えるだけということですね。だとしたら、今議論されている「AIが人類を乗っ取る」みたいな話は、完全に違うカテゴリーの話ということか。

金岡博士:そういうことになります。実体がないものについて議論するのは、正直不毛だと思っているので、AIによってコントロールされたロボットを主要な構成員とする社会でのロボット倫理学のようなところにはあまり興味がありません。それよりも、今目の前にどんな問題を抱えていて、それを解決するために使える技術があることを明らかに分かっているならば、それを作り、選択肢として提示する方が先だと考えています。

杉原:文化を作っていくようなイメージですかね?

金岡博士:いろんなところで言っているのですが、まずは基本的なコンセンサスをとらなくてはいけないと思っています。それは、確かに「文化」と表現できるのかもしれませんね。

「ロボット」と言ったとき、ある人は自律ロボットをイメージするでしょうし、ある人はガンダムをイメージする。人によって受ける印象が大きく変わるバズワードです。同様に「ロボットを作るんだ」と言ってしまうと話が噛み合わず、議論が収束しなくなってしまいます。

金岡博士が提唱する新しい概念


杉原:逆に新しい言葉を作られるつもりは?

金岡博士:そうですね、「人が操作するロボティックな機械の総称」は必要だと思います。人機一体社で使っている“マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)”という言葉はそのひとつです。人が機械を直感的に、思い通りに操作するだけではなく、人の意志がロボットボディのダイナミクスに導かれ、ロボットの動きとして発現する。その相乗効果をデザインしていく、というコンセンサスが、「マンマシンシナジーエフェクタ」という言葉に込められています。

杉原:ロボットが大事というよりかは、マスタスレーブとの繋がりというところに大きな意図を感じるので、アウトプットとしてはありとあらゆる可能性を持っていると感じます。

そういうった中で、ボストン・ダイナミクス社が、4足歩行のロボットをいよいよ来年発売するのと、水道橋重工とMegaBotsのリアル・スティール (参考:https://robotstart.info/2017/10/18/kuratas-megabots-battle.html)のような大会がありましたよね。僕はあのようなジャンルをエンターテインメントと思っているのですが、人機一体として市場には参入されるんですか?

金岡博士:エンターテインメントの分野は、すごく有望な市場だと思っています。結局、ロボットを何のために作るか考えた時、最終的には実業ですよね。ロボットが何か作業をすることにより、その作業の価値を提供するというのが最終的な目標であるというのは変わりません。しかし、実業にたどり着くまでの道が比較的長いこと、さらに、ロボットの重要な属性が汎用性であることを考えると、実作業に行く前に、まずは人型重機を体験してもらうという価値が提供できると思うんです。例えば、テーマパークなどに人型重機のプロトタイプを提供する形でもいいですしね。

杉原:たしかに! メガロボット大戦みたいなアトラクションは実現できそうですもんね。来年、再来年くらいになんか出てきそうな予感がします。何かしらの機会があれば、人機一体としても協力していく感じですか?

金岡博士:そうなるとどうだろう(笑)。やるなら自分たちでやるでしょうし、大戦そのものも上手くルールを作らないと中々難しいと思います。エンターテインメントとして、ちゃんとプロデュースできるのならば、やってみるのも有りかもですね。

杉原:例えば、人機一体リーグみたいなものが仮にできたとした時に、やはり持っているテクノロジーをある程度シェアしていかないと、対戦相手ができないと思うのですが。それをどうやって切り離し、ビジネスに繋げていくかとかはお考えですか?

金岡博士:我々が持っている技術をどこまで開示し、どこまで守るかというバランスについては、他の技術と比べて特殊なことはなく、いわゆる一般的な感覚と同じだと思っています。開示する部分は特許を取ればいいし、それにそぐわない技術はブラックボックスにしておけばいい。

杉原:でも、なかなかブラックボックスとして技術を守るって難しいじゃないですか。

金岡博士:そうかもしれませんが、できるとこはできますよ。

杉原:それはプログラミング?

金岡博士:ソフトウェアとハードウェアの両方ですね。

作業機(スレーブ装置) “MMSEBattroid ver.1.0”

 杉原:先ほどマスタスレーブシステムを操縦させてもらった印象として、スレーブロボット(作業機)の方は、既に実用化がなんとなくイメージできるのですが、マスタ装置(操作機)の方はもっともっと変わっていきそうな気がするのですが。

金岡博士:どうでしょう。マスタ装置に求められるのは、スレーブ装置との一対一の対応のみです。マスタ装置における操作が、必ずしも人間の普段の動作と同じ必要はありません。もしかしたら、むしろ似ていない方がいいのかもしれませんし。

人間が普段している動きを、ロボットも出来ますというのは、実は個人的にあまり好きではないんです。それは感情としての好き嫌いでということではなく、合理的ではないように思うんです。要は、我々のマスタスレーブシステムにおいては、操作者の身体能力は、単なるインタフェースです。だから力が強いとか弱い、可動域が狭いとか広いというようなことはあまり関係ありません。その人なりのインターフェースとして一番使いやすいスイートスポットを使えばいいだけの話だと思っています。つまり、操作者の身体のスイートスポットによって、マスタ装置の設計自由度は、最初からある程度制約されています。

そしてさらに、人間の普段の身体スキルを使ってロボットを動かせますっていうのは、ロボットの動きがある意味、普段の身体スキルに制約されてしまうということになるので、あまりやりたくないですね。それよりはむしろ、ロボットを操るためのスキルを普段の身体スキルと関連付けずに、新たなスキルとして習得して欲しいと思っています。

杉原:運転免許証みたいなものですね。

金岡博士:そうです。非常に端的な例を挙げれば、車を走らせるために、運転者が「生身で走る動作」をする必要はない、ということです。車を走らせるためには、それにあった合理的な操作の仕方があるわけで。

杉原:車っていうのは、資格的や常識的な部分、あとはある程度の運転技術が必要というところだと思うんですけど、人機一体の考えている資格っていうのは、幅広く誰でも取得できるくらいのものに持っていくのですか?

金岡博士:そこは逆に狭めるべきだと思います。少なくとも最初の段階では、きちんと高いスキルを持った人だけに制限をして、ロボットを扱うことがどういうことかっていうのをきちんと広めて欲しいです。誰でも簡単にロボットを操れます、では逆にマスタスレーブシステムの存在意義を毀損します。むしろ、人型重機を操作する「プラチナライセンス」を持っている人が、その高いスキルで尊敬されるようにしたい。

杉原:僕は操れる人の中に入りたいです!(笑)

金岡博士:そう! だから、操りたい人に操ってもらえればいいんです。皆が皆、巨大ロボットに触れる必要はない。今は誰でもスマートフォンを持ったり、コンピュータを持っている時代ですが、少なくとも巨大ロボットはそのような存在にはならないじゃないですか。それってどこまで行ってもスペシャリティであって、いわゆるコモディティではないんですよ。

杉原:だとしたら今からそのスキルを練習しておかないとですね(笑)。

金岡博士:一方でそれは、我々の狙いでもあります(笑)。要は、3Kみたいな職業がなんで嫌われているのかっていう大きな要素はフィジカル面なんですよね。でも、ロボットをその間に挟めば、フィジカル面での不快感を取り除くことが可能になってくる。スキルだけを人が発揮すればいいわけです。しかもそのスキルは、人が元々持っているスイートスポットを使えばいいから、純粋に操る能力だけが問われることになると考えています。

“人機一体”という社名が物語るように、人が機械を操作することで不可能を可能にすることを追い求める金岡博士。どの言葉にも決してぶれることのない強い意志を感じることができた。近い将来、災害地などで実際に活躍するロボットを目にする日がきっと来るだろう。

後編へつづく

金岡博士
(
株式会社人機一体 代表取締役社長 兼 立命館大学 総合科学技術研究機構 ロボティクス研究センター 客員研究員)
ロボット制御工学者、発明家、起業家、武道家。専門は、パワー増幅ロボット、マスタスレーブシステム、歩行ロボット、飛行ロボット等。ロボット研究開発の傍ら、辛口のロボット技術論を吼えることがある。マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)という概念を独自に提唱し、あまり相手にされないながら、十年来一貫してその実装技術を研究・蓄積してきた。そして今、業を煮やして、ビジネスとしての社会実装に挑戦するため「株式会社人機一体」を立ち上げた。
http://www.jinki.jp/

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 中村竜也 -R.G.C)

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テクノロジーを基盤に、コミュニケーションの垣根を越える。『WITH ALS』武藤将胤の目線【the innovator】前編

吉田直人

ALS(筋萎縮性側索硬化症)。体を動かす運動神経系が変性し、徐々に壊れてしまう疾患で、進行に伴って手足の稼働、発話、嚥下といった動作が難しくなっていく。最終的には呼吸障害が生じ、延命の為、人工呼吸器の装着が必要になる。現時点で有効な治療法が確立されていないこの難病の当事者として、“テクノロジー”と“コミュニケーション”を軸に音楽、ファッション、モビリティなど多彩な活動を展開する『WITH ALS』代表、武藤将胤氏。そんな武藤氏に、HERO X編集長の杉原行里が話を伺った。人間の能力を“補完”だけでなく“拡張”しうるテクノロジーの役割。軌を一にする二人の議論に花が咲いた。

コミュニケーションの幅を狭めない

杉原:僕はボーダレスという曖昧な世界観を『スポーツ』、『テクノロジー』、『メディカル』という3つの分野を通じて、かっこよく、面白く楽しめることを目指しています。福祉の世界は選択肢が少ない。そこに僕は強い違和感を感じていて、いつか着てみたい服、行きたいホテル、乗ってみたい車、というように、様々な選択肢を提示したいと思っています。

武藤:見ている世界が近いと思います。『WITH ALS』は、ALSという病の認知・理解を促進することで、治療方法や支援制度の向上に寄与することを目的としています。加えてもう一つの役割は、ALSやその他難病の当事者、家族のQOL(Quality Of Life)向上に貢献するコンテンツ開発や支援活動の実施です。具体的には、パーソナルモビリティ『WHILL』のレンタルシェアや、ロボットクリエイター吉藤オリィ氏と協業したロボットテレワークプロジェクト『働くTECH LAB』、メガネデバイスの『JINS MEME』を活用した眼球の動きのみによるDJ、VJソフトウェアの開発(『EYE VDJ』)などを行ってきました。いずれのプロジェクトもテクノロジーとコミュニケーションをキーに据えています。

杉原:僕は武藤さんにお会いする前から、武藤さんは相手に物事を伝達するのが本当に上手だと思っていたんですが、博報堂時代にコミュニケーションの仕事をされていたと知って合点がいきました。ALSに関する活動でも、エンターテインメントやテクノロジーを利用して、気づけばALSについて理解していたり、人の輪ができていたり、未来が見えていたり。

武藤:一方向のコミュニケーションには限界があると感じていて、ALSに関心を持っている方は熱心に応援して下さるけれど、全く接点がない方に、僕たちの思いをどう伝えるかを考えた時に、コミュニケーションの幅を限定しているようでは届かないと思ったんですね。それから、コミュニケーションの幅を、かなり広く捉えるように心がけています。

杉原: 2014年、ALS患者を支援することを目的にはじまった「アイスバケツチャレンジ」は、動画サイトにアップされ、海外セレブに広がったことで、世界的な広がりを見せました。バケツに氷水を入れて、それをかぶるか、100ドルを支援団体に寄付するか、その両方をやるか、選択をするというもので、やった人が次の人を指名し、指名を受けたひとがまたその選択をするというものでした。どちらもやらないという人もいましたが、僕は面白いなと思ってドネーションをしましたが、あのアクションで結果的に、ALSを知る人は増えた。“理解を広める”ということに関しては「面白い」とか「かっこいい」が入り口でないと継続しづらいと思っていて、「アイスバケツチャレンジ」はそれができていたのかなと。

武藤:僕自身も健常者の経験があります。健常者時代に、このコミュニケーションの方法で果たして興味を持ったかを想像しながら、健常者の視点と、障がいを抱えた人の視点双方を精査することに重きを置いています。

「せりか基金」の広がり

杉原:武藤さんが動画で言っている「想像ではうまくいってる」という言葉が凄く好きです。

武藤:実は漫画『宇宙兄弟』の台詞なんです。僕たちは、ALS治療薬の研究開発費用を集める活動は『宇宙兄弟』チームの『せりか基金』(※)というファンドレイジングと一緒に行っているんです。僕もこの台詞がとても好きで、当事者である僕が、その言葉を発信することに意味があるんじゃないかと思いました。アイスバケツチャレンジから今年で4年。あれほど社会的なインパクトがあったものの、残念ながら一過性で終わっていることに凄くショックを受けました。もう1回当事者が、「僕らのゴールはALSが治る未来をつくることだったよね? じゃあそこに向けてできること。一人ひとりの“キープムービング”で良いから、続けていこうというメッセージが根底にあります。

※せりか基金:漫画『宇宙兄弟』から派生した『宇宙兄弟ALSプロジェクト』が展開するALSの治療方法を見つける為の研究開発費を集める活動。

『人TECH』は“補完”を超えて“拡張”する

杉原:アイスバケツチャレンジから学んだこととしては、未来に対する投資というよりも、未来を近づけるという考え方が近いのでしょうか。

武藤:そうですね。ビジョンを提示して、それに対する皆さんの協力や、一人ひとりが考えることがスタートだと思います。例えば「もう一度、氷水かぶれるな」とか「もう一度寄付だけはできる」とか「俺はテクノロジーに強いから、テクノロジーを使って患者さんをサポートできるんじゃないか」とか、一人ひとりが貢献できうることを考えてもらうきっかけをつくりたかったんですね。そういった発信をする度に新しい出会いがあり、プロジェクトのスタートにもなる。発信して、リアクションがあって、現実に変わっていく。動画を発信してから『せりか基金』の寄付も増えてきていて、アーティストの方が、自分のライブで募金活動を行ってくれたり、ステージで自分の思いを語ってくれたり、生のリアクションは本当に嬉しいです。

杉原:武藤さんが公開した一番最初の動画が2015年1月1日ですかね。「Fuckin(ファッキン) ALS」。

武藤:あれは本音です(笑)。周囲からは「あれはやめておいたほうがいいよ」と言われたりもしました。当時は『WITH ALS』というネーミングも既に考えていましたが、最初だけは本音をさらけ出したい、と。それから『WITH ALS』として、ALSと向き合う活動を始めた方が、自分自身の気持ちとしてもリアルだと思ったんです。

杉原:今も本心はそうではないですか? その気持が僕には凄く伝わりましたし、動画という形で残されていますよね。

武藤:リアルをさらけ出すことで、同じ病気と闘っている方へメッセージが届くと思ったんです。でも同時に考えていたのは、ネガティブな感情からは何も生まれないということ。「ファッキン」てどれだけ思っていても、その感情に負けたくなかった。自分が今、未来に向けて起こせるアクションは何かを考える為に、『WITH ALS』を立ち上げました。

杉原:その時に見た未来と今は比較してどうですか。

武藤:病気が進行していくという状況は、想像していた以上に大変なことだという実感は持っています。でも、3年半やり続けてきたからこそ「まだやれる」という思いもある。チャレンジを続けるほど新しい仲間との出会いがあります。僕たちは、主にテクノロジーとコミュニケーションの領域で活動をしていますが、前者で言うと「あなたはこれを2度とできません、不可能です」と言われていたことを、テクノロジーとの融合で可能にできるという確信を持つことができました。それは障がいを抱えていて、何かを補うという概念以上に、健常者の進化にも繋がると思っていて。

杉原:僕らは、それを“拡張”と呼んでいます。

武藤:人間の可能性を拡張するのは、まさにテクノロジーの役割だと思うんですね。僕らは、人を支えるテック、『人TECH』と呼んでいて、テクノロジーの力で人間の能力を拡張させることが僕らの使命だと思っています。

杉原:同感です。“補完”も勿論大事だと思っていて、それを否定している訳ではなく、“拡張”という要素がないとワクワクしないじゃないですか(笑)。

武藤:ひとつだけ例を挙げると、今、僕が付けているメガネ型デバイス。「これを使って日常的な意志伝達ができたら良いよね」と思う。でも、それは補完でしかなくて、ワクワクするスイッチって押されない。僕は本来、全ての人に表現の自由は平等にあるべきだし「俺ら、まだまだできるよ」という意味で、DJとVJをこのデバイスだけで行う『EYE VDJ』を始めたわけです。僕は、健常者時代は手でDJしかできなかったのが、今は音楽と映像双方の表現を目の動きだけでやっている。これは、ある意味拡張だと思います。そういうモデルをどんどん社会に提示していきたい。

「不可能」と言われると、燃える

杉原:補完的な考え方って結構多くて、そういう社会に一石じゃなく、何石も投じている姿は“感動”だけで絶対に終わらせたくないと感じています。『せりか基金』でも、テクノロジーにどんどん寄付していくのも面白いですよね。

武藤:そうですね。『WITH ALS』の専門領域がテック。テクノロジーを活用して患者さんのQOLを上げていくことは、治療薬のない病気であればあるほど、大事な役割だと思う。QOLが担保されないで「ALSは治らないけれど、ただ生きて下さい」と僕は言えない。「自分らしく生きることができる。だから治るまで一緒に生き抜いていこうよ」と言えるようになりたい。

杉原:QOLと聞くと、皆、急に難しく考えるけれど、子どもの頃から持っている感情で、一番シンプルなはずなんですよね。

武藤:ただ、自分らしく生きたいだけですから。

杉原:その感情は誰も止めちゃいけない。今、武藤さんが実行しているテクノロジーという領域は凄く共感できます。一歩踏み出すゼロイチ的な考え方は、凄く難しい。でも武藤さんなら、できる気がします。

武藤:逆に、今は「不可能」と言われると燃えるんです。「本当か? 可能にできる道筋があるんじゃないか」と。でもそれを一人で体現、実現する必要はないと思うんです。今、活用できるテクノロジーの種類は無数にあると思っていて、あとは僕たちがテクノロジーの使い方を当事者の視点で発信していくこと。ですから、テクノロジーサイドにもイノベーションを起こせると思う。その意味では、テクノロジストと僕らのような存在はタッグを組むべきだと考えています。

後編につづく

武藤将胤(Masatane Muto)
1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。J-waveラジオナビゲーター。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALSを発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。

WITH ALS
http://withals.com/

(text: 吉田直人)

(photo: 河村香奈子)

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