スポーツ SPORTS

情熱にとりつかれた義足のスケートボーダー、クレメント・ザンニーニ

Yuka Shingai

スポーツ界の明るい未来を担う存在として、義足のスポーツ選手が年代、国籍、競技のジャンルを超えて活躍している。今回紹介するスケートボーダー、クレメント・ザンニーニもそのひとり。ショートパンツとナイキのシューズ姿で華麗に宙を舞い、目を見張るような離れ技から等身大の素顔までSNSで披露する彼はまさにミレニアル世代を代表する義足のアスリートだ。

クレメント・ザンニーニはフランス、ヴィッテル出身の23歳。生まれながらにして右脚が不自由な彼は幼少期から活発でエネルギーに満ちた子どもだった。義足を使ってスケートボードに取り組む彼の表情は、いまもずっと少年のようにひたむきでピュアそのもの。「義足も、スケートボードも僕自身の延長にあるもの」と自分に与えられたものを謳歌する姿は、とびきりチャーミングだ。

エクストリームスポーツに属するスケートボードは、とにかく身体的にも精神的にも強靭さが求められる。町行く歩行者や車にぶつかることなく、4つの車輪がついた板の上で進み続けられるようになるだけでも何カ月もの練習を要するし、急な傾斜やエスカレーターの手すりの上を滑り降りたり、階段の上からジャンプする高度なトリックを成功させるには、体に不自由あるなし、若さに関係なく、相当のスキルが必要だ。派手に転倒することも珍しくはないし、長時間のセッションの後には痛みがつきもの。日常的にひび割れた皮膚をニッパーでケアするのも欠かせない。

右脚の義足では足首を曲げることができないために、ザンニーニには物理的に不可能なトリックも少なくはないが、それでも彼は来る日も来る日も練習し続ける。

「カウチに寝転がって一日中ゲームするなんて考えられないよ、ただ僕はスケートがしたいんだ」

その練習量のヘビーさで義足が壊れてしまうこともある。それも1カ月に1回は起こるのだと言う。

「僕には限界があることも分かっている、だけどそんなことは気にしていない。僕にはスケートボードが全て、それ以外はどうでもいい」

そんな一貫したアティチュードが示すように、スケートボードへの真摯な愛情、それだけが彼をボードに向かわせる。

「自分自身をロールモデルだなんて思わないよ、好きなことをやっているだけ。それだけのことさ」とあくまでも飄々と語る彼の言葉には勇気やくじけない心、しなやかさが秘められている。

スケードボードだけではなく、エクストリームスポーツ界のこれからを照らす存在として、ザンニーニの活躍に期待したい。

[TOP動画引用元:https://www.youtube.com

(text: Yuka Shingai)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

スポーツ SPORTS

サイバスロン日本代表を“足下”から支える天才・遠藤謙【サイバスロン】

中村竜也 -R.G.C

昨年開催された、サイボーグ技術の競技会「第1回サイバスロン スイス大会」への参加や、先日、クラウドファンディングで見事目標を達成したプロジェクト「義足の図書館」など、すべての人に動く喜びを与えることを目指し義足を開発する、株式会社Xiborgの代表である遠藤謙さんに、義足の未来についてお話を伺いました。

遠藤さんは、生物の構造や運動を力学的に探求し応用するバイオメカニクスや、リハビリテーション工学、スポーツ工学を専門とし、マサチューセッツ工科大学が出版するTechnical Review誌が選ぶ「35歳以下のイノベーター35人」に選出されるなど、義足開発のエキスパートとして世界的に注目をされています。

サイバスロンに参加して見えた課題とは

「サイバスロン スイス大会では、“Powered Leg Prosthesis Race”という、大体義足を使用する競技に参加しました。おそらく一般の方がサイバスロンと聞くと、ロボットコンテストのように現場で細かな調整をして本番に挑むようなイメージを持たれると思うのですが、我々がやっているのは、一昨年の段階でリハーサルを始め、本番では工具を一切使わないレベルまで上げ競技に挑んでいるんですね。ですから、チームとしてはすごくいい物ができたと思っています。しかし、いざ競技が始まると、本来の実力が出せなかったことに悔いが残りました。今後の課題は、経験や精神面の強化だと感じています」。

義足の世界では、「どの義足が一番優れているか」というような表現はしないという。なぜなら使用する人に合った物が、その人にとって一番いい義足になるからです。そういう意味では、遠藤さん率いるXiborgチームが作った義足は、間違いなくその選択肢の一つにはなり得る感触はあったと、遠藤さんは確信していました。

第2回大会で勝つために必要なこととは

「製品レベルと研究レベルの義足って、確実に違う物だと思うんですね。そう考えると、我々が作らなくてはいけない物は、確実に製品レベルでなくてはいけないと思っています。正直、現段階では、まだそこに到達していないので、2019年までに着実にこなしていかなくてはいけません。理想はその時点で製品化されていることですね」。

また、陸上のトップアスリートであるジャレッド・ウォレス選手をサポートしているXiborg。「ジャレッドに関しては、サイバスロンとはまったく別視点で契約をしています。それは世界最速を目指しているということです。もちろん彼の能力としてそこを目指せるのはもちろんですが、もう一つテクノロジーが好きであるという点です」。世界最速。分かりやすいだけに、難しい目標であることは誰もがわかること。他の契約選手を見ても目指しているところは一目瞭然です。

「走るってことでも、高く飛ぶってことでもいいんです。一番のポイントは、人間のパフォーマンスを最大限に引き出すことが出来るのは、生身なのかテクノロジーなのかというところにあると思っています。それを考えた時に、現段階で一番分かりやすいのが陸上競技なのです。単純に速いってかっこいいじゃないですか。だからこそ熱くなれるような現象を起こしたいな、という気持ちで研究しています」。

そして最後に、サイバスロンで使う技術とアスリートの義足で使う技術の違いを聞いてみました。「サイバスロンで使う技術は、日常生活の中での動きに対応する部分が大きいんです。例えば階段の昇降など繊細な動きが出来るか。ただ、先ほども言ったように、そのような動きに関しては、感じ方が個々に違うので評価が難しい所なんです。しかし、最速というところは、もう一点突破で目指すことは一つしかないのが最大の特徴ですね」。

今回の遠藤さんにお話しを聞き、強く感じたことが2点ありました。一つは、純粋な情熱を持ち義足というテクノロジーと向き合うことで、人々の夢を背負っているということ。もう一つは、「すべての人に動く喜びを与えること」を実現するためには、彼のような存在が、今、絶対的に必要とされていることでした。これからの彼の活躍に期待しつつ、Vol.2ではHERO X編集長との対談をお届けします。

Xiborgオフィシャルサイトhttp://xiborg.jp/

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 壬生マリコ)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー