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自分の身体がギターになる!?義手のエンターテイメント性を拡張する可能性【the innovator】

朝倉奈緒

昨年も開催された『超福祉展」で、編集部が注目した義手楽器『Musiarm(ミュージアーム)」。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所(以下KMD)のEmbodied Media Project(身体性メディアプロジェクト)が出展したプロダクトのひとつだ。義手業界のエンターテイメント性向上のため開発されたというMusiarmについて詳しく知るために、開発者の畠山海人さんを訪ねた。

渋谷の道元坂上付近にある、雑居ビルの3階。お台場の日本科学未来館、慶應日吉キャンパスと並ぶ、彼らの研究拠点のひとつだ。KMDにも様々なプロジェクトがあるが、Embodied Media Project(以下EM)とは、主にどんなことを研究しているのだろうか。

「身体性メディア」とは?

「『身体性メディア』とは自身の身体を通して得る様々な経験を、記録・共有・拡張・創造する未来のメディアテクノロジーのことで、人と人、人とモノとのインタラクションにおける身体性を理解し操ることで、楽しさ、驚き、心地よさにつながる新たな身体的経験を生み出すという様々なプロジェクトを行っています。僕らの活動内容は色々とありますが、身体の拡張、例えば触覚をデジタルとしてデバイスをもって再現するというプロジェクトもそのひとつです。最近だと、唐揚げを口に入れて噛んだときの食感を再現したデバイスなどがあります。また、企業と一緒に行う研究も多いですし、親子で楽しめるようなものを使ったワークショップを実施することもあります。

例えば電子書籍でいうと、iPadはフリックするだけで読めますが、「本」というモノである形と「めくる」という動作がデジタルにすることで簡略化されています。でも「本」ならば本来紙の匂いがして、「めくる」という手の質感や動作が大事だと思うんですね。そういったアナログな部分を失わずに活かしつつ、デジタルという技術とコラボレーションしたら、何か面白いことができるのでは、というのがEMの研究の基となる考え方です」

そう答えるのは、昨年の春、KMDに入学したばかりのルーキー、畠山海人さん。もともと高専でエンジニアリングやものづくりを学んでおり、KMDの中ではテクノロジーや身体の拡張、ものづくりに専念できる唯一のプロジェクト、EMに参加した。

「ユーザーがいることを想定してモノを作るわけですが、良いモノを作ったとしてもコネクションやコミュニティがないとメディアに出せなかったり、世に出るまでに時間がかかったり、最悪出せないこともある。KMDはメディアへの露出も積極的にしているので、それをうまく利用して、自分が作ったものをいち早くお披露目していきたいです」

そんな想いで世に放たれたMusiarm。超福祉展で出展されていた1作目はバイオリンやトロンボーン、トランペットをモチーフにしたクラシック寄りのもの。この日見せていただいたのは、つい1週間ほど前に完成したばかりというギターやベースなどの弦楽器をモチーフにした最新バージョンだ。

義手×エンターテイメントで価値を引き出す

「Musiarmは、義手と楽器を融合させたものです。僕はものづくりの研究をしていく中で、特に人の身体に興味があり、人間の機構でも色々なことができる手に着目しました。そこで義手を作ろうと思い、色々と調べたり、専門家に話を聞いたりしてわかったのですが、現在義手の技術はモノを掴んだり、離したりといった機能性や、腕の代わりとなるものばかりが追求されていて、例えば脳の筋肉のコントロールで思い通りにピアノが弾けたり、義手をつけて細かい作業ができたりといった研究は、様々な大学機関や企業でされているものの、完成するまでに何十年もかかると言われています。でもスポーツができる義手や、楽器として弾くことができる義手といった、エンターテイメント性の高い義手の開発はほぼされていない。僕はエンターテイメント性の拡張や繁栄を目指して音楽 × 義手 = Musiarmを作りましたが、ゆくゆくはスポーツ × 義手だったり、ライフスタイル × 義手、ファッション × 義手といったプロダクトを開発していきたいと思っています」

Musiarmはターゲットユーザーと一緒に開発された。畠山さんが義手の当事者とエンジニア、義肢装具士の三者が集まるコミュニティMisson ARM Japanに参加し、アイデア出しの時点からディスカッションしたり、当事者の身体の使い方をよく観察し、その人の身体の動きに合わせて設計したのだ。

「先天性(欠損障がい)の方だと、例えばプロのスポーツ選手になるとか、プロのミュージシャンになるといった選択肢が限られてしまい、仕事を見つけることすら困難な状況で、人を魅了するとか、何かパフォーマンスするということがとても難しい現状があります。それをMusiarmのようなプロダクトがあれば補える。目の見えない人だったら、その分他の聴覚だったり、点字を読む触覚だったり、その人だからこそ備わっている身体的特徴や価値があると思っていて、日々鍛えられるそういった才能を引き出し、前に押し出す手助けをしたいと思っています。今まで望んでいた人が、周りから望まれる体になる。僕らが見てかっこいいな、すごいな、そう感じるプロダクトを作りたいんです」

目指すは義手楽器のバンド結成!

Musiarmの弦は畠山さんが作ったオリジナルのゴムのような素材。弦は金属なので錆びてしまい、弦交換をしなければならないが、片手だとその作業は困難なので、交換の必要がない素材を採用している。通常ギターを弾く前に必要なチューニングも、テクノロジーとコラボレーションすることで、ソフトウェアひとつ、ボタンひとつで自動コントロールすることができる。またMusiarmを装着したまま左右に動かすという身体の動作で、エフェクトをかけることも可能だ。

「今はまだ数が少ないので普通の楽器とのセッションになりますが、できればバージョンを増やして義手楽器だけでバンドを組みたいです。最新バージョンがギターなのでメロディが弾けますし、次のバージョンでドラムを入れたら、リズムが刻めるんですよ。」

そう語る畠山さんが目指すのは、あくまでも「ドラムスティックを操り、既存のドラムセットを叩く義手の開発」という発想ではない。

「既存の楽器はギターだったらネックの先に大きくて重たいボディがついていて、それが邪魔で自由な動きができない。身体の一部を楽器にすることで、そういった制限や限界を取っ払った自由な動きができたり、踊り自体が演奏になったりと、従来のバンドとは違うユニークなパフォーマンスができるんです」

一般的な義手は高額な上、重く、見た目がメカメカしくて逆に目立ってしまうということもあり、義手をつけずに生活する人が多いという。しかしパフォーマンスするための義手として、Musiarmはある。

「なんでも簡単にプレイできるのものではなく、練習する過程だったり、人への見せ方だったり、自分自身を押し出していく、自分だからこそこの表現なんだ、というパフォーマンス力だったり、そういったやりがいや楽しさをきちんと補ったものを、体を活用してできる新しい体験として作っていきたい」

「今から生まれてくる先天性欠損障がいの子どもや、楽器を弾いていたけど手を失くして弾くことを諦めてしまった人たちが、ない部分、その余白部分にテクノロジーを入れることで、健常者よりも一歩先にいける可能性を秘めていると思う。彼らはギタリストやバイオリニストのような、義手楽器のプロになれるんです。いわばミュージアムニストに(笑)」

近い未来、ミュージアムニストで結成されたバンドや、オーケストラの演奏を観ることができる日を楽しみにしている。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所:KMD
https://www.kmd.keio.ac.jp/ja/

Embodied Media Project
http://embodiedmedia.org/

(text: 朝倉奈緒)

(photo: 河村香奈子)

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国際的な賞を受賞した「Communication Stick」の現在―商品化への挑戦と介護現場での発見

川瀬拓郎

若手起業家の登竜門としても知られる、国際エンジニアリングアワード・ジェームズ・ダイソン・アワード。「Communication Stick」と名付けた、高齢者外出支援のための杖を開発し、2016年の国内最優秀賞・国際TOP20受賞したのが三枝友仁氏だ。この若きデザイナーの受賞作のその後と、介護現場から見えてきたこれからのデザインについて話をうかがってきた。

― プロダクトデザイナーとして、現在はどのようなお仕事をしているのでしょうか?

「新規事業開発の支援をするコンサルティングファームでプロダクトデザイナーとして働いています。新しい事業をするための、アイデアを創出することをしています。対象となる分野は、食品から産業機器まで多岐に渡ります」

― ジェームズ・ダイソン・アワードに作品を提出するために、会社の業務と並行して開発を行っていたとのことですが。そもそも、なぜ介護や福祉の分野に興味を持ったのでしょうか?

「学生時代に出会った『生きのびるためのデザイン』という本がきっかけです。40年以上前の本なのですが、当時はピラミッド型社会の頂点に位置づけられる、ごく一部の人の需要を喚起するものがデザインとされていました。しかし、後の時代には、ピラミッド型社会の下層にいる人たちに働きかけるデザインが必要になってくるはずだし、それが社会変革を促すと書かれていたのですね。超高齢化社会を迎えた今、そのアイデアを自分なりに考えたとき、介護が必要な高齢者や障碍者のためのデザインがもっと必要になるし、それが実現できるはずだと考えたのです」

『生きのびるためのデザイン』ヴィクター・パパネック著、阿部公正訳:1974年/晶文社。

― 一般的にプロダクトデザイナーというと、車や家電製品をイメージしてしまいがちですが、かなり早い段階で介護への関心をお持ちだったのですね。

「確かに車や家電製品のデザインで有名になった方はたくさんいますね。そうしたプロダクトデザイナーは、もともと車好きであったり、オーディオ好きだったり、モノが好きということが出発点にあるように思います。でも、自分が考えるデザインとは、既に世の中にあるモノをデザインするのではなく、そもそも世の中にない概念をカタチにすることだと考えています。デザイン思考や人間中心設計を念頭に、さまざまなリサーチをしながら、人々の課題やニーズを掘り起こしていく作業が必要となります」

― すでにある具体的な商品や製品をデザインするよりも、そもそも“何を作るのか?”という立脚点こそデザインだということですね。

「もちろんクライアントワークですから、ある程度範囲は決まっていますが、ユーザーリサーチからわかった抽象的な概念の中から、“この辺りに機会がある”という領域を見つけて、そこを手掛かりに具体的なプロダクトやサービスのアイデアに落とし込んでいきます。先程もお話しした通り、需要を喚起するためのデザインではなく、人の役に立つデザインを目指していたことが、介護福祉分野への興味に繋がっています。桑沢デザイン研究所在学中に、福祉用具専門のデザイン会社で働いた経験も、介護福祉分野に関心を持つきっかけとなりました。そこにはデザイナーがあまり目を向けていない問題があるように感じたのです。介護者や被介護者が今までできなかったことができるようになり、生活水準が上がる。そういう現場を見てやりがいを感じられたことも大きな要因でした」

「Communication Stickは、介護者と被介護者をつなぐ新しい杖の提案。「音声からテキストメッセージ送信」「受信したテキストメッセージの音声読み上げ」「転倒時の位置情報通知」の3つの機能を実装しています。この3つの機能によって、外出における「迷子」と「転倒」の不安を解消し、被介護者と介護スタッフの両者にとって安心と安全な外出機会を提供します」

― 介護や福祉を語るとき、どうしても弱者を助けるという一面ばかりが強調されてしまいがちですが、そうした問題意識によってこの分野に導かれたということですね。さて、ジェームズ・ダイソン・アワードを受賞した「Communication Stick」ですが、こちらはその後どうなったのでしょうか?

「実際に製品化するために、Open ChallengeというDMM.make AKIBAのアクセレータープログラムに参加して、事業化に向けた取り組みをしました。まずやろうとしたことは、デザイン・モック(実際の商品外観が分かる試作品)と、ワーキング・モック(実際の商品機能が分かる試作品)を一体化することで、最終製品と同じような状態にして、ユーザーが利用できるか確かめることでした。しかし、そのためには数百万の資金が必要になり、個人としてはとても賄えない額でした。そうした資金面で最初につまずいてしまいました」

  

「Communication Stick」デザインモック

「Communication Stick」ワーキングモック

― ビジネスにつなげるためのハードルは高かったと。さらに商品化を妨げることがあったのでしょうか?

「次のつまずきは、介護施設の高齢者の外出支援ができるかということです。デザイナーとしての通常業務と並行し、エスノグラフィー調査として、小規模多機能型介護施設で働き、介護士の資格も取得しました。確かに、外出時における“転倒”と“迷子”の不安はありますが、外出できない理由はそれだけではなかったことが分かりました。例えば、認知症を患っていて、交通における危険察知能力が落ちている、排便機能が低下していて失禁の心配がある、そもそも行きたい場所がないなど、複雑に問題が絡み合っていました。当時は、それらすべてを本製品で解決することはできないと考え、資金面の問題もあり、開発を中断することにしました。しかし、今落ち着いて考えるとすべてを解決しなくていいと思っています。“転倒”と“迷子”に対する不安で外出を躊躇する人を支援できれば、それでいいのかもしれないと思っています」

― 介護士の処遇や労働環境については、さまざまな問題が報じられていますよね?

「どんな仕事でも精神的苦痛はあると思いますが、介護職には生理的苦痛もあることが問題だと思っています。特に気になることは臭いで、そこが改善されれば、労働環境の問題を少し軽減できるのではないかと思っています。それから、介護士の給与がその他の職種よりも低いとされるのは少し誤解があって、介護計画を作成するケアマネージャーや、介護施設の管理職までの職位になれば、給与は決して低くないと思います。問題になっているのは、マネジメントに行き着く前に介護士を辞めてしまう人が多いからだと思います。たしかに現場はきついということは事実としてありますが…」

― 介護を通じて、さまざまな問題点がさらに見えてきたのですね。

「また、もうひとつ分かったことは、介護行為は生活支援であって、断片的にではなく、連続的に物事を捉える必要があるということです。利用者の気持ちに寄り添う共感力がなければ、彼らの支援ができないということもわかりました。とある認知症の利用者がいたのですが、しょっちゅう周囲の人を叩くのですね。そのたびに介護士が止めるわけですが、その理由が分からない。とあるベテラン介護士の方がその利用者を見たところ、何か身体に具合が悪いところがあって、その痛みを訴えているのでは?と。そこで、検査してみたところ、胆石が発見できたのです。その時、介護職は誰にでもできる仕事ではないと思いました。この能力は、ユーザーに対するデザインにも同じことが言えるのではないでしょうか」

三枝 友仁(さいぐさ ともひと)
明治大学卒業。桑沢デザイン研究所デザイン専攻科プロダクトデザインコース卒業。在学時から福祉機器専門のデザインファームにプロダクトデザイナーとして勤務。高齢者の移動機器、食事介助具、排泄介助具、入浴用品等の開発に携わる。現在は、業務委託先にて主に新規事業開発に従事。国際エンジニアリングアワード・ジェームズ・ダイソン・アワード2016国内最優秀賞・国際TOP20受賞。

(text: 川瀬拓郎)

(photo: 増元幸司)

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