コラボ COLLABORATION

東京に現れた巨大な物体の正体は? “祭り危機”を救う「ツナグルマ」

日本全国に30万はあるかもしれないと言われる祭り。しかし近年、地方ばかりではなく、都会でも神輿や山車の担ぎ手不足に頭を悩ませる所が出ている。伝統の火を絶やしたくないという思いはあるものの、人口減少によりやむなく祭りを諦める地域もあるようだ。

祭りといえば、子ども神輿に始まって、大人の引く大きな神輿や山車が続くというのがいずれの地方でも見られる一般的な光景だった。だが今は、子どもが減って子ども神輿はお休み中という地域も少なくない。それだけではない。大きな神輿や山車を動かす現役世代の減少により、隣町から担ぎ手を借りて祭りを続けているという地域も存在するほど。こうした“祭り危機”をどう乗り越えるか。その解決策となるものが東京都で開催中のSusHi Tech Tokyoでお披露目された。そのカギを握るのが会場に夜な夜な運び込まれたこの黒い物体だ。

黒いシートに包まれて運びこまれた謎の物体

祭り危機を乗り越えるという難題の解決に挑んだのは江戸時代創業で、日本の祭り文化を支えてきた宮本卯之助商店だ。モータースポーツ分野やロボットを始め最先端のモビリティ開発を手がける株式会社RDSと共に、伝統と新技術の融合で全く新しい山車の開発に取り組んだ。日本の伝統的な神輿作りのノウハウと技術に、EVアシスト技術を融合させてできたのが未来の山車「ツナグルマ」だ。

全体のデザインを担ったのは数々のデザイン賞で受賞歴のあるexiii design代表の小西哲哉氏だ。お囃子の乗る山車のやぐらを底から支えて運ぶのはなんと亀。黒いシートに包まれて会場にやってきたのはこの亀だった。

伝統的なやぐらとデザイン的な乖離を無くすため、日本の伝統的な柄やモチーフを元に作りたかったという小西氏は、浦島太郎を竜宮城へと導いた亀をツナグルマの船頭に抜擢した。亀は昔から縁起物。いい未来を運んで来るという思いも込めているという。

この亀、見た目も未来的なら内蔵されているギアだって負けていない。EVアシストを搭載することでこれだけの巨大な山車にもかかわらず、大人二人でも引くことができる。やぐらには大きなLEDパネルも搭載。映像と光で祭りを盛り上げる。

ツナグルマの制作ショートムービーでは大人二人だけで動かす映像が公開されている。
https://rds-design.jp/lp/tsunaguruma.html

小西氏が描いた全体像にインスパイアされたと話すのは宮本卯之助商店代表の宮本芳彦氏だ。亀の上には伝統的なやぐらや山車ではあまり見かけない六角形の屋根が乗っている。宮本氏によると、亀の甲羅に合わせて六角形に仕上げたという。そして、そのさらに上、山車上部を彩るのは日本伝統の提灯だ。この提灯、よく見ると東京都の市区町村全ての名前があるのが見て取れる。

祭りを盛り上げる要素として大切なのがお囃子だが、技術面での融合に加えて今回は音にも工夫をこらしたようだ。伝統的なお囃子を奏でる山車上部に設けたのはなんとDJブース。お囃子と共鳴する音楽をここから流すことができる。最上部を飾るのは、東京の森を守る檜原村で取れた杉で作った太鼓だ。檜原村は東京では珍しく村の93%が森という地域。豊かな森を守るための取り組みに力を入れている地域だ。

宮本卯之助商店とRDSがそれぞれの場所で制作してきたものを合体し、未来の山車ツナグルマが完成。この巨大な山車、EVアシストのおかげでなんとたった2人でも引けるというから驚きだ。

そして、このツナグルマを使って実際にお祭りムードが体験できるイベントが5月18日(土)、19日(日)の2日間に渡ってSusHi Tech Tokyoで開催される。ツナグルマに相応しい祭り音楽をと、アーティスト・小袋成彬さんが作曲を担当し、伝統的な「音頭」をアップデート。この「和」と「未来」が融合した楽曲に、ダンサーのFISHBOYが振り付けをしたダンスをステージで繰り広げる。参加費は全て無料。この週末は大人も子どもも楽しめる新しい祭りをぜひ体感してほしい。

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イベント
WAO!DANCE
伝統的な「音頭」をアップデート
5月18日(土)18:10-19:10 in有明アリーナ

ツナグルマパレード
ツナグルマとWAO!DANCEがシンボルプロムナード公園をパレード
5月19日(日)19:00-20:00 in シンボルプロムナード公園

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日本に初上陸した“実験思考”イベントBORDER SESSIONSとは?

長谷川茂雄

2011年よりオランダの都市ハーグにて開催されている先鋭的なイベント「BORDER SESSIONS」をご存知だろうか? 専門的な知識と行動力、そして探究心を持ち合わせた世界中の活動家たちが集い、これからの未来におけるあらゆる解決策や革新的メソッドを発信する、いわば“社会実験場”。実はこの画期的イベントが欧州を飛び出し日本に初上陸を果たした。去る10月5〜6日の2日間、新虎ヴィレッジは、ユニークな発想を持った国内外のスピーカーと、それを体感しに訪れた参加者、そして多くのマスコミ関係者で盛り上がった。HERO X編集長・杉原もスピーカーとして参加したこのホットなイベントのレポートをお届けする。

ついにアジアにも飛び火した
欧州発のアイコニックなイベント

欧州では最大級のテック系イベントとして知られている「BORDER SESSIONS」。テクノロジー、デザイン、哲学、アートetc.……、それらがいかにして多くの社会課題を解決していくのか? そのためには何が必要か? 同イベントは、そんな未来への解答を、参加者全員で導き出そうというポジティブな取り組みでもある。

2011年にオランダでスタートしてから、初の他国開催となった今回。フォルクスワーゲンが東京の“新しい遊び場”として期間限定でオープンさせた新虎ヴィレッジの特設会場には、国内外から多くの参加者が集まり、あらゆる事例と社会課題、そしてその処方箋が提案された。

Future Pitch(未来ピッチ)、Summit(サミット)、Lab(ラボ)、Lab for Kids(展示会)というプログラムの中から、もっとも同イベントを象徴するFuture Pitchに着目し、3名のスピーカーの提案をご紹介する。

RDS代表兼HERO X編集長、杉原行里。

補完的な考えを超えた
“拡張”が作る新しい未来

午前のピッチの最後に登壇したRDS代表兼HERO X 編集長・杉原。「身体データのもたらす未来と選択肢」をテーマに、超高齢化を迎える日本の課題と解決策を提示した。

焦点になったのは、「身体データを可視化し、解析するパーソナライズの量産化」、そして「デザインやテクノロジーを付与することで得られる新たな選択肢」の2つ。

それらのキーになるのは、“いつか使ってみたい松葉杖”であったり、“いつか乗ってみたい車いす”のようなプロダクトであることをアピールした。常々杉原がHERO Xを通して語っているように、大切なのは、補完的な考え方ではなく、いかに拡張するか? ということだ。

「車いすとは、足が不自由な人が使うものだと、みなさん思っていませんか? 僕はそういう未来は消えていくと思います。どちらかというとモビリティとして誰もが活用する時代がやってくる。足が不自由な人もそうでない人も乗れるモビリティ。そういう認識に繋がるようなデザインやアイデア、技術が付与されて新たな選択肢ができる。そして市場が活性化していくのです」

RDSがこれまで手がけた車いす型モビリティや車いすレーサーも展示され、ピッチ終了後は乗車体験の場も設けられた。

続けて杉原は、パラリンピックのギア開発では、選手の抽象的な感覚を数値化することが大切であると強調した。それによりデザイナーやエンジニアもコミュニケーションが取れるようになり、アスリートと同列の開発ができるようになったという。最近発表されたシーティングポジションの最適化を可能にするシミュレーターSS01も、そんな経緯で生まれた。

「人生の1/3は、座っています。身体的感覚を数値化することで、シーティングポジションの違いで、パフォーマンスも大きく変わることがわかりました。その最適解を見つけられるロボットがSS01です。僕らはそんなパーソナライズの量産化をしていくことの重要性を日々実感しています」

最後にRDSのこれからの展望として、予測医療分野でのサービスを挙げた杉原。パラスポーツのギア開発から得られたデータから、新たな未来がどんどん見えてきたという。
「いま世界の潮流は予測医療です。あなたはこういうふうになるかもしれないから、こういう予防をしなさいと伝える。それはもう常識になりつつあります。僕らはセンシングデータなどを駆使して、AIとともにアルゴリズムを構築しながら、みなさんがどんな予防法や備えが必要かをお知らせするサービスを作っていこうと思っています」

ランチタイムには、ランチチケットを持った参加者に、料理人の入江 誠氏が手がけたオリジナル丼が配られた。

全国各地から集められた食材を使った“サスティブル”な丼ぶりファラフェル・ボウル。地球環境を配慮した材料と調理法で作られた料理を食べながら意見交換をする「ランチセッション」も、重要なプログラムのひとつ。

動物と交信するロボットに込められた
シンバイオシス哲学

ラフなスタイルで登壇したイアン氏は、テリングアニマルズを実践し続けてきた先駆的アーティスト。

昼食を挟んでからの午後の会場は、季節外れの暑さも手伝ってさらに熱気を帯びた。そこで一際ユニークなピッチを展開したのは、ロサンゼルスを拠点に活動を続けるアーティスト、イアン・イングラム氏だ。

動物自身のジェスチャー信号を使用して、ロボットと人間以外の動物との交信や通信(テリングアニマルズ)を試みてきた同氏が掲げたテーマは、「人間とRobotの共生」。

これまでイアン氏は、リーダーのように振る舞うラバー製の小魚ロボットや、鳩への求愛ダンスを踊る22フィートを超えるロボット、リスの尻尾の振り方をモチーフにして敵が来たことを知らせるロボットなど、見た目がファニーで興味深いプロダクトをいくつも手がけてきた。それは、ロボットと動物の新たなコミュニケーションを生み出す興味深いツールだ。

「私は常々、技術と環境をどうやって融合させるかということを考えてきました。でもシンバイオシス(=共生)というものはなかなか難しいものです。

これまで様々なロボットを作ってきましたが、初めて動物が理解できるシグナルを発信できたのは、2009年に作ったリスの尻尾の形をしたロボットです。このロボットは、犬が近づいてきたら、その危険を他のリスたちに伝えることができますが、それと同時に犬を追い払うこともできます。単純かつ一方的に(動物に)情報を発信するだけではなく、意味のあるメッセージをしっかり伝えるという時点で、非常に画期的なものでした」

マサチューセッツ工科大学で修士号を取ったイアン氏は、そんな動物の形態と行動、機械の形状と動きをリンクさせたロボットを作る先駆者だ。その視点は、さらにハイレベルな試みへと繋がっている。

「複雑で優れた知能を持つ鳥、カササギをご存知でしょうか? 彼らがくちばしを吹く行動は特徴的ですが、それは、より硬いものを食べられるようにするなどの効果があります。でもそれだけではなく、何かしら不安を感じるときも同様にくちばしを吹くことがわかってきました。

不安を感じた時の置き換え行動ですが、その不安や緊張といったものを、外からの信号やカササギにわかるような言葉で発信できる方法はないか? 我々はそんなミッションにも挑んでいます。それだけではありません。ネズミと鳩の間で求愛を伝える手段はないのか? そんな面白いプロジェクトにも着手しているのです」

つくば市が本当の共創の場
として発展を遂げるために

世界的に見てもユニークな都市、つくば市の課題と可能性について語る江渡氏。

少し涼しくなった夕方に登壇したのは、産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)の研究員で、メディアアーティストとして知られる江渡浩一郎氏。これまで様々な人が集まって一つのものを創る、共創プラットフォームに関する研究を重ねてきた第一人者だ。彼が作り上げた著名な共創プラットフォームは、ユーザー参加型の学会「ニコニコ学会β」である。

そして現在、江渡氏は研究学園都市のつくば市を一つの“共創の場”として作り上げようとしている。その取り組みについて発表された今回のピッチは、ずばり「実験都市つくば」がテーマだ。

「ニコニコ学会βは、我々が立ち上げた新しい学術コミュニティなんですけど、その特徴はプロフェッショナルな研究者が参加する従来の学会とは違います。例えば、ニコニコ動画で単に自分の好きなロボットを作っていたとか、そういった初心者ユーザーもここに来て研究成果を発表することができます」

共創において必要なものは、“共通善”であると語る江渡氏。一般ユーザーも、障がい者のような極端なニーズのあるユーザーも、共通していいと思うものを共有することがもっとも大事だという。まさにつくば市は、それを実践する場所なのだ。

「ご存知の通り、つくば市は研究学園都市で、研究所が何百個も集まっていて、10人に1人は博士号を持っているという特殊な街です。そこで自分が担っているのが、スタートアップ戦略を立てる役割なんです」

2020年には、江渡氏が先導する形で、“Tsukuba Mini Maker Faire”が開催される。それはカリフォルニアで始まったモノづくり版コミケとでもいうべきフェアが原型になっている。

「つくばから産業を起こすといいながら、ここ35年ぐらいは、なかなかそれが叶わなかったのが実情です。その理由はいろいろありますが、我々が注目したのが、とにかく何かを作るのが好きという研究者はたくさんいるのに、その成果を見せられる場が意外とないということ。“Tsukuba Mini Maker Faire”とは、まさにそういう機会です」

さらに江渡氏は、つくば市からユニークな産業が生まれる資金面のしくみ作りにも取り組んでいる。

「アメリカには、SBIR(Small Business Innovation Research)という中小企業の技術革新を促すプログラムがあります。連邦政府機関が、ある一定の外部委託研究予算を中小企業の研究助成に回すというしくみですが、そのつくば版を創設しようと考えています。目標達成のために研究者は起業して会社を作り、用意されたステージゲートをクリアしていくとだんだん会社が大きなっていく、そういうしくみ作りができれば産業はもっと生まれやすくなると思っています。“Tsukuba Mini Maker Faire”はその出発点なんです」

新虎ヴィレッジ(https://sp.volkswagen.co.jp/shintora/

日本で初開催となった「BORDER SESSIONS」。世界中から集まったスピーカーが登壇した初日のピッチに続き、2日目も、参加者がリアルな体験ができるワークショップやラボが開催され大いに盛り上がった。

単なる社会的な問題提起ではなく、その先にある具体的な解決作を見出そうとする試みは新鮮で、何より刺激的だった。今後の開催にも期待が膨らむ。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 増元幸司)

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