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いつか、宇宙に手が届くかも。仮想空間でモノに触れるデバイス「EXOS」【exiii:未来創造メーカー】

朝倉 奈緒

筋電義手「handiii」やその進化版である「HACKberry」などの開発、また画期的な福祉機器デザインで世界的な賞も多数受賞する注目の企業、exiii(イクシー)。今年1月に発表されたばかりの外骨格型の力触覚提示デバイス「EXOS」とは? CEO山浦博志氏とCCO小西哲哉氏に、開発に対する思いを聞きました。

浅草橋と馬喰町の間、衣料品店が立ち並ぶ街の雑居ビルの一室。重い扉を開けると、まるで大学の研究室のような活気と混沌に満ちたexiiiのオフィスに到着しました。手製だという木目調のテーブルの上には、開発中と思われる製品の試作品やそれらに繋ぐ配線のアダブターがずらり。その絡まった配線をひとつずつほどくように、exiiiについて紐解いていきたいと思います。

exiiiは、はじめは個人のものづくりプロジェクトとしてスタート

パナソニック勤務時代に、趣味で色々なものを作ってSNSにアップしていたという山浦氏。2013年頃家庭用3Dプリンターが普及しはじめ、以前大学の研究で作っていた義手(ロボットハンド)を、それで作れるということに気がついた彼が、同社で働いていたデザイナーの小西氏を巻き込み、本格的に製品化。筋電義手は国際的なデザインエンジニアリングコンペで世界2位を獲得。「自分たちのやろうとしていることは社会的に意義のあることなんだ」と盛り上がり、実際に「その義手を使いたい」と名乗り出る人に出会ったことも奮起になり、会社設立に至りました。

「義手の市場は大変狭く、国内で1万人も使う人がいない。製造業としてビジネスは成り立たないため、オープンソースという形で自分の作っているものを公開しました。そうして面白がってくれた人たちがどんどん開発に参加してくれるので、資金を大きく割かずに開発が広がっていく、というアプローチを取ったのです」と山浦氏。現在義手は開発した内容を上肢障がい者のために活動するNPO法人Mission ARM Japanに移管して、開発と普及を進めています。

EXOSで、将来深海や宇宙にあるものに触れることができる!?

さて、今年発表されたばかりの「EXOS」はVRを用いたゲームが楽しめたりと、より大きな市場が見込めます。

山浦氏が当時大学の研究で人間の指を外部から操作するメカを作っており、2016年に初めて体験したVRと組み合わせたら、「物に触った感触が表せる」と思いついたのがEXOS開発の経緯だといいます。VRの中で「存在しないものに触れることができる」革新的なデバイス、EXOSの実用性について聞いてみました。

「例えば、製品開発の課程で、通常ならパソコン上で図面を作成し、実際にそれを作ってある部分を削ってみたりするわけですが、EXOSを使えばVRの中で製品を組み立て、それを実際に触ることまで体験できるんです。もうひとつは、“手に触った感触を生み出すことができる”ということ。例えば遠くにあるロボットハンドを遠隔操作で動かし、ペットボトルをつかむ感触を感じることができます。それによって、原子炉内での作業が安全な場所でできたり、人間の入れない深海や宇宙にも行けるかもしれない。」EXOSのポテンシャルの大きさに、夢が広がります。

もともと趣味でやっていたものづくりが仕事にでき、会社まで設立したわけですから「毎日楽しくてしょうがないでしょうね」と思わず漏らしてしまいましたが、そうばかりは言っていられません。

「VRがビジネスで使われるようになったのがここ最近なので、市場がまだしっかりできていない。なので、EXOSのような新技術デバイスを使った新しいビジネスも一緒に作らなければいけないんですね。また技術面でいうと、人が使うものはデザインも技術も、身につけるゆえの制約がすごく多いんです。置いて使うものだったら重たくてもいいし、電源繋いでいいなら強いモーターとかも使えるんですけど、手でつかんで使うとなると、着け心地や重さなど、色々と制約が出てきてしまうんですよ。」と楽しそうに話す山浦氏。難解な側面を攻略するのも、研究者としての腕の見せどころのようです。

デザインによって受け手の価値観を変えていきたい

「僕の場合は義手や義足、下肢装具などのデザインに携わってきていて、そういう医療機器や福祉用具は機能がしっかりしていればいい、みたいなところがあるのですが、そこにデザインが入ると、色々なことが一気に進んだりするんです。世の中の目がそちらに向いたり、患者さんがそれを着けてみたい、と思ってくれたり、デザインひとつで受け手の価値観ががらりと変わったりするんですよね。そうやってデザインすることによって外に発信できたり、新しい展開になったりという前向きな力になったときが最高に楽しい。ですので、これからまだデザインされていないものをデザインによって変えていきたいです」と語るデザイナー、小西氏からは、落ち着いた物腰から滲み出る、デザインという仕事に対する情熱が感じられました。

「僕らは“プロダクトを通じて人間の可能性を広げる”、ということを目指しているので、たとえ他社の製品であっても、人ができることが増えるプロダクトを魅力的に感じますね。自分が好きな”ものづくり”には制約があって、それを3Dプリンター、VRが出現したことで取り払ってくれた。自分もそこに繋がるような新しいツールを作れたら、と思っていたので、自由にモノに触れることができるものであるEXOSが、今一番自分がやりたい、欲しいものなんですよね。」と山浦氏。

3次元のデータに自由に触れて、感じられて、操れて、というのができるようになるのが開発中であるEXOSのゴールとのこと。4/25(取材日の一週間後)には、一般の人にも公開する体験会を予定。

少年のように夢いっぱいの青年たちの元から飛び出すEXOSが、然るべきアイディアで社会的に大きく羽ばたいていくことになる日も近いでしょう。

株式会社exiii(イクシー)
http://exiii.jp

(text: 朝倉 奈緒)

(photo: 壬生マリコ)

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入院中の病室で生まれた、愛着の湧くものづくり 天然素材デザイナー・吉田道生氏

岸 由利子 | Yuriko Kishi

新しいデザインが生まれるのは、何もアトリエや工房だけではありません。優れたデザイナーは、時として、大学病院の病室さえ、クリエイティブな空間に変えてしまう。そのことを身をもって証明したのが、天然素材デザイナーの吉田道生氏。17年間、株式会社キヤノンで、カメラやプリンターなどのデザインを手がけたのち、デザイン戦略に興味を持った彼は、2000年にサムスン電子に転職し、長きにわたって、デザインチームを運営してきました。突然の病が襲ったのは、2015年初めのこと。隔離病棟に入院中、彼が発明した“心地良いプロダクト”とは、何なのか?具現化に至るプロセスや天然素材にかける想いについて、じっくりお話を伺ってきました。

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「結核だから、明日入院してくださいと言われて。びっくりしましたね」

―前兆はあったのですか?

吉田道生氏(以下、吉田):ずっと咳をしていたんですね。その後、息子と一緒にインフルエンザにかかってしまって、急激に体力も低下して。しばらく経っても、あまりにも咳が止まらないので、病院で診てもらったら、「レントゲンに影があるので、大学病院で再検査してください」と。

その時、具体的な病名は伝えられなかったのですが、「ガンになっちゃったのかな…」とか、色んな想像が頭をもたげ、ビクビクしたね。検査から1日経って「結核です。明日入院してください」と言われて。びっくりでした。

―入院するのは、初めてでしたか?

吉田:いえ、今回が3回めでした。結婚してすぐくらいの時に、スポーツジムでトランポリンをやっていたのですが、背骨を圧迫骨折しまして、2ヶ月ほど入院しました。若い頃から、馬鹿なことばかり色々とやらかしていましたね(笑)。あとは、扁桃腺の手術を受けた時です。

―結核の治療って、どのように行われるのですか?

吉田:元々、自覚症状は咳だけで、だからというわけではないのですが、入院して、薬を飲んだら、すぐに止まったんですよ。でも、結核って、殺菌のようにパッとはいかないそうで、菌自体が増えるのも減るのもゆっくりなので、一旦、菌が治まったことが確認できてから、週に1回行われる検査で、確か3回以上OKが続かないと、中々、退院には至らないんですね。

狛江の慈恵医大に入院していたのですが、隔離病棟はその時期、たまたま空いていて、ほぼ個室のような状況でした。結核だけをを患った患者は私ぐらい、ほかには、合併症を抱える高齢者の方が数名いました。圧迫骨折で入院した時は、ベッドから出ることすらできませんでしたが、今回は、自分で動けるし、体は至って元気。回復を日々、実感しつつも、隔離病棟からは出られないという、ちょっとはがゆいシチュエーションでしたね。

病室の“ひとりワークショップ”で生まれた、最高級木材・ヒノキの「木こちい(ここちい)」とは?

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―病室では、どんな毎日を過ごされていたのですか?

吉田:インターネットがどうにか繋がっていたので、フェイスブックなどを通して、友人や知人と交流したり、スマートフォンやタブレットで電子書籍を読んだり、動画を見たりしていました。が、最も多くの時間を過ごすのはやはりベッドの上で、なおかつ横になった状態です。書籍よりも、電子書籍の方が読みやすいけれど、動画にしろ、長時間、端末を使っていると、やはりその体勢ではすぐに疲れてしまうんですね。「横になったまま、どうすれば、スマートフォンやタブレットを快適に使えるだろう?」と考えるうちに、病室のテーブルで、“ひとりワークショップ”を始めたんですよ(笑)。

―“ひとりワークショップ”とは!?

吉田:必要なものは随時、アマゾンで注文して、看護師さんが病室まで届けてくれていたのですが、アマゾンって、小さな商品を頼んでも、かなり立派なダンボールで梱包されて届きますよね?お掃除の方にわるいなと思って、出来るかぎり小さくたたんだりしていたのですが、ある時ふと、「コレ、捨てるのもったいないな」と思って。入院時に持参したペンケースの中に、カッターと金属製の定規が入っていたので、それらを使って身近な必需品をダンボールで作る工作を始めました。

スマホスタンドや自撮り棒、スリッパなど、色々と作っているうちに面白くなってきて、「見舞いに行くけど、何か要る?」と弟に聞かれた時に、「のり、持ってきて」と(笑)。62日の入院中、10個ほど試作を作りましたね。

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これは、金属製のスマートフォンホルダーにダンボールと輪ゴムを使って、キンドルを取り付けられるようにしたものです。輪ゴムもかなり頑丈で、いいなと思って、留めてみたら本当に良くて。ただ、この金属製のフレキシブルパイプを使った製品では、位置決めがしづらく、何か他によい方法はないかなとひとりワークショップをやっていて、国産のヒノキ材を使った「木こちい(ここちい)」の枕上タイプのアイデアが生まれました。

「木こちい(ここちい)」枕上タイプ

―うわ、これは快適ですね!高さの位置調整がスムーズ。留め具がないのに、どうしてちゃんと固定されるんですか?

吉田:横板にゴムバンドでスマートフォンなどの端末を固定し、縦棒にテコの原理で止めることで、簡単に高さや左右の角度を調整することができるようになっているんです。囲炉裏って、鍋の高さを自在に変えられるようにできているじゃないですか?あれと同じ構造なんですよ。

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―ヒノキの香りに癒やされます。素材のこだわりについて教えてください。

2015年6月末に、サムスン電子を早期退職するまでの32年間、私は、プラスチックや金属の大量生産される製品の開発に携わってきました。むろん、今も企業の多くは、いかに効率よく、それらの製品を開発するか、そこに注力していますが、よりユーザーが愛着を持って使える多品種少量生産型の製品への要望が強まっているということも、また事実です。近年、私自身も、木材をはじめとする天然素材を使った、愛着の湧くものづくりをしていきたいと考えていました。

友人のデザイナーが初めた「日本スギダラケ倶楽部」というユニークな集団があるんですね。彼らと関わっていくうちに、国産材の有効活用など、社会性のあるデザイン活動に、より強く興味を持つようになりました。完治して退院後、この倶楽部を通じて知り合った木工の町・栃木県鹿沼市の栃木ダボさんの協力を得て、入院中に描いたデザインを具現化し、世界初のチケット購入型クラウドファンディング『ENjiNE(エンジン)』でお披露目するに至りました。ちなみに、試作で輪ゴムを使った部分は、石川県かほく市の気谷さんのヘアゴムを使用しています。

より快適に、心地よくをめざして。「木こちい」専用のクッションや抱きまくらの展開も検討中

「木こちい(ここちい)」横タイプ

―こちらの製品も、快適です。自宅にあったら、ベッドから離れられなくなりそうです。

吉田:これは、枕の横に置くタイプなので、「木こちい(ここちい)」の“横タイプ”と呼んでいます。ゴムバンドでスマートフォンなどの端末を垂直に固定できるので、横になりながら、読書や動画鑑賞を楽しめる仕様になっています。コンパクトなデザインですが、キンドルやタブレットにも対応できるんですよ。

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―今後の展望についてはいかがですか?

吉田:医療系の通販サイトをはじめ、こだわりのある商品を扱っているところで、「木こちい(ここちい)」を展開していきたいと考えています。専用のクッションや抱きまくらなども作っていきたいですね。抱きまくら、こうやって使っている方(上記、右)、けっこう多いと思うんですけど、抱きまくらに傾斜をつけたら、より見やすくなるでしょうし、快適に使える方法を色々と思案中です。恋愛小説を読む時なんか、ぎゅーっと抱きしめられますし、特に女性にとっては、一石二鳥になるでしょうか(笑)。

このクッションと抱きまくらの中身は、ヒノキのチップにしてみました。寺院の柱などを製造する時に出る研磨の廃材ですが、リラックス効果の高い“フィトンチッド”成分が含まれていますし、ヒノキ自体、木目の美しい、耐久性に優れた最高級の素材です。病院や老人ホームをはじめ、ご自宅などでも、心地よく使っていただけたら本望です。

開発者のリアルな入院経験と必要性から生まれた「木こちい」。「さらなる心地良さを追求し、改良を重ねています。商品名は、“きこちい”と読まれることが多く、心地良さが少し伝わりにくかったので、“木もちんよか”(きもちんよか)に改めました」と吉田氏。心地良さへの徹底的なこだわりが詰まった製品、今後の展開に注目したい。


京都大学デザインスクールでの講演内容
http://www.design.kyoto-u.ac.jp/activities/forthcoming/7077

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 壬生 マリコ)

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