人それぞれに違う痛みや感じ方。本人と同じように体感することは極めて難しいだろう。だが、デザインを使ってリアルな体感を与えてくれる取り組みをはじめたパラスポーツ団体がある。日本肢体不自由者卓球協会(パラ卓球協会)では、選手が感じている卓球台を可視化するため、「変形する卓球台」を制作、イベントでの展示や公式HPでの紹介を始めている。
不自由はマイナスなのか。もちろん、マイナスな面は多い。だが、パラアスリートは〇〇だからと逃れるのではなく、真っ向から勝負に挑み、果敢に挑戦する道を選ぶ。その姿勢は勇ましい。肢体不自由者枠のパラ卓球は、2つのジャンルに分かれている。立った状態で競技ができる人が参加する「立位」と、座位でプレーする「車いす利用」で、このうちさらに、障がいの重度によってそれぞれ5クラスに分かれて戦う。ルールは、一部、車いす利用者のみ特別ルールが用いられるが、ほかは一般的な卓球と変わらない。だが、体に特徴を持つパラアスリートにとってはやはり、健常者と同じ土俵というわけではない。
脚に不自由さを抱えていれば、そちら側の守備にハンデを抱えることになる。リーチのしづらさから、同じ卓球台でも選手により台の感じ方、捉え方が変わると言うのだ。
「両足首に障がいがあるので、左右に振られた時にハンデを感じます。特に左足は自分の力では動けないので、左に振られた時は卓球台が遠く感じます」とコメントするのはリオ2016パラリンピック代表で、今年、アジアパラで銀メダル、世界選手権個人で銅メダルに輝いた岩渕幸洋選手。両足にハンデを持つが、特に、左足の踏ん張りがきかず、卓球台は左側がとても長く感じる。「左右に振られたときにハンデを感じるので、振られないように前でプレーすることを意識しています。そして、勝負をすると決めた時に、思いきり踏み込んで仕掛けます」
車いすの部で活躍する女子アスリートの茶田ゆきみ選手は「車いす同士でも外国の選手に比べて日本の選手はリーチが短いので、届く範囲が違います。だいたいラケット2個分は変わってくる感覚です」とコメント。彼女の場合はネットまでがとても遠く感じるようだ。そんな彼女が描く卓球台のイメージは、自身が立つコート側の距離を長くしたもの。
「ネット際が届かないので、ネットまでがものすごく遠く感じます」。弱い部分を補うため、相手からの返球がネット際にこないようにと、相手の体の真ん中、しかも深めを狙って打つようにしている。
彼らが感じる卓球台のイメージをもとに、それを具現化したのが「変形する卓球台」だ。パラアスリートの感覚をよりリアルに体感できるように実物の天板の制作には国際大会で用いられる国際基準の技術を使った。実物はパラスポーツのイベントなどで体験できるようにする。また、日本が誇るパラ卓球アスリート20人が感じている卓球台のイメージを、公式HPで公開中だ。
パラ卓球公式HP
https://jptta.or.jp/