テクノロジー TECHNOLOGY

義手の世界に革命を起こす、22歳の若き起業家

岸 由利子 | Yuriko Kishi

必要とする人のために、高機能なカスタムメイドの義手を作り、手の届く価格で提供したい――その情熱が、22歳の米国の起業家Easton LaChappelleを突き動かし、最先端の3Dプリント技術を駆使したロボットアームの製造企業「Unlimited Tomorrow」を創立するに至った。従来の義肢業界に風穴を開けるべく現れた革命児、LaChappelle氏の軌跡とUnlimited Tomorrowの活躍に迫る。

原点は、14歳で作ったロボットアーム

引用元:Unlimited Tomorrow https://www.unlimitedtomorrow.com/

LaChappelle氏が初めてロボットアームを作ったのは、14歳の時。レゴブロックと釣り糸、電線管、模型飛行機の小さなモーターを組み合わせたもので、当初は、「面白半分でやってみた」と回想するが、それ以来、より精度を上げるための方法を探すために、インターネットで情報収集し、独自に改良を重ねていく。彼の生まれ故郷、コロラド州の田舎町で得ることができない情報については、ロボットとエンジニアリング分野の専門家たちに、直々にメールを送り、スカイプでインタビューを行うなど、体当たりのアプローチで、水を得た魚のごとく、義手開発のノウハウを培っていった。

2011年、16歳の誕生日に、500ドルの3D プリンターを両親と折半して購入し、ワイパーモーターで駆動する3Dプリント義手を製作した。EEGヘッドセットを通して伝わるユーザーの脳波信号によって動かすことができる、というもので、LaChappelle氏は、この義手を科学展覧会に出展し、グローバルサイエンス賞(高校生の部)を受賞。当時の米国の大統領、バラク・オバマ氏と接見したほか、NASAの夏季インターンシップを経験する機会などに恵まれた。

たったひとりの少女のために
6年をかけて、3Dプリント義手を開発

この科学展覧会では、LaChappelle氏にとって、その後の人生を大きく左右する運命的な出会いがあった。彼女の名は、Momo。生まれつき右腕の肘から先のない幼い少女は、群衆をかき分けて飛び出し、彼の作った義手の指が動くのをじっと見つめていた。その時、Momoがつけていた義手は、手のひらを開いて、閉じるという動作しかできないもので、“かぎ爪”のような形状をしていたという。

「(Momoの両親によると)その義手は、80,000ドルもするのです。私は、たった数百ドルで、より優れた機能を備えた義手を作れたというのに」

その時、目からウロコが落ちる想いがしたという。特に、子どもの場合、洋服や靴と同じように、成長と共に、義手もサイズが合わなくなり、新たに買い換える必要が出てくる。高価な義手を子どもに与えることには、さまざまな問題があり、また、それらの義手は、多くの人にとって、あまりにも高すぎるため、手の届かないものでもある。

Momoとの出会いをきっかけに、LaChappelle氏は、学校には行かず、彼女の義手を作り上げるための研究やテスト作業に専念した。マイクロソフトをはじめ、Unlimited Tomorrowの設立に協力したトニー・ロビンズ氏など、さまざまなサポートを受けながら、実に6年もの歳月を費やし、思い描いた通りの3Dプリント義手を完成させた。

2018年末までに、カスタムメイドの
3Dプリント義手100本を生産予定

Momoのために開発した義手は、筋肉制御が可能で、指の1本ずつに触覚のフィードバック機能があり、物を触った感覚を得られる。義手の表面の色は、好みの色にカスタマイズできるし、爪には、色を塗ることだってできる。

こうして、ロボットアーム第1号を世に生み出したLaChappelle氏。現在、Unlimited Tomorrowは、前述のマイクロソフトのみならず、3Dプリント技術の専業メーカーのストラタシスや、3Dソフトウェアプロバイダーのダッソー・システムズといった大企業と提携し、2018年末ごろまでに、個人向けの義手100本を生産する予定で、製作に取り掛かっている。これら2社とのコラボレーションにより、開発のスピードをさらに加速させると共に、一人ひとりに合ったカスタムメイドの義手を作るために、重量やコスト面などを考慮しながら、改良を重ねているところだ。

Unlimited Tomorrowの公式サイトによると、現段階において、カスタムメイドの義手の製作期間は、約1~2週間、重量は1ポンド(0.45kg)。1本20,000 ~ 100,000ドルと、極めて高価な義手が大半を占める義肢業界において、その4分の1に相当する価格、あるいは、それ以下で手に入れられるとしたら――「義手の指を自分で動かす」という一番の夢を叶えたMomoのように、世界のどれほど多くの人が喜びを得て、人生を豊かにすることができるだろうか。若き起業家、Easton LaChappelleの革命は、ここからが本番だ。

UNLIMITED TOMORROW
https://www.unlimitedtomorrow.com/

[TOP動画引用元:https://youtu.be/HNvLtst7Gjo

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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世界の食料問題を畜産スマートカメラが変える! AIと歩むコーンテック社の先進的な取り組み

富山英三郎

コーンテック社はこれまで、「自家配合プラントの構築」と「飼料マネジメント」を併せて提案することで畜産農家へのコンサルティングをおこない、「手間」と「コスト」を削減する試みをおこなってきた。その一方、深度カメラを用いながらAI技術を駆使し「畜産の見える化」に関する実証実験をおこなっている。彼らが目指す「スマート畜産」の現在について、CEOの吉角裕一朗氏に話を訊いた。

飼料を自家配合すれば
20~30%以上のコストダウン

コーンテックの主な事業は、「自家配合プラントの構築」と「飼料マネジメント」にある。そもそもなぜ自家配合プラントを勧めるかといえば、家畜の餌にかかる割合いが経営コストの60%以上を占めるほど大きい点だ。畜産が儲からない体質の要因であり、ゆえに後継者不足がおこりやすいという悪循環に陥っている。

一方、餌を自家配合にすると、地域の食品残さを利用して製造される「エコフィード」なども活用でき、輸入飼料だけに頼らない畜産リサイクルを構築することができる。事実、同社のシステムを導入した100カ所以上ある畜産事業者は、20~30%以上のコストダウンを実現させている。

「自家配合プラントは大きさもいろいろあり、飼育数100頭規模の業者から、1万頭規模の大企業まで導入できます」

AIを使い餌の最適な
配合バランスを導き出す

コーンテック社が面白いのは、そこにIoT技術を組み込もうとしている点にある。そこから得られるビッグデータをもとに、餌の最適な配合バランスをAI分析することで、これまで職人の勘に頼ってきた家畜の生育を「見える化」させようとしている。現在、実証実験をしているのは養豚だ。

「飼料の自家配合自体は難しいことではないんです。しかし、餌の栄養バランスの計算はとても複雑です。豚という生体が食べているものはデータも不規則で、これまではある程度の平均値でしかやれていませんでした」

家畜の生育には「気温」や「湿度」の影響が大きいことはこれまでも知られていた。家畜のエネルギー消費の半分は放熱によるもので、気温が暑ければ放熱しにくく、寒ければ放熱しやすい。夏と冬では食べる量が2倍程度違う。ゆえに、夏場はたんぱく質を濃くし、冬場は薄くするなどの経験値はあった。

「それもざっくりとした経験値であって、本当に機能していたかはあやしいんです。一般的に豚が出荷されるまでに160~180日かかります。最終的に110kgになりましたと言っても、体重が増えた要因を追うことができない。結果論でしかないわけです。
そこを追うためには、時間や日にちごとのデータを積み上げてグラフ化していくしかない。ある一週間の体重の伸びが悪い場合、それは台風がきて気圧が下がっていたからだと分析できたとします。すると、次に台風がきたときに対処ができるようになるわけです」

畜産スマートカメラ導入で
わかったこと

現在コーンテック社では、豚の高さや幅などを計測できる深度カメラを使用し、24時間体制の実証実験をおこなっている。肩幅や頭の大きさ、脛の長さなどの比率がわかれば体重を割り出すことも可能だ。

「体重以外にも、生死の判断、妊娠の判断、活動量の測定、何かしらの異変で豚舎の隅に豚が集まっているなどもわかります。今後はそういった挙動を観察することで、豚コレラなどの疫病を察知できるかもしれません。カメラを使えば、たとえ3万頭いてもすべてをロックオンできますから、人間が見たこともない数値が出てくることもありえます。今後新しいジャンルになり、ゲームチェンジが起きることが予想されます」

畜産スマートカメラを導入することで、上記のような「異常検知」や「人件費の削減」という点も重視しているが、コーンテック社の考えるミッションはもっと大きい。

「貿易の問題も含め、食料問題は世界的におこっています。そんな時代に効率よく食料を生産することは喫緊の問題であり、それこそが弊社のミッションです。畜産スマートカメラを導入することで、家畜は放牧したほうが良いという結果が生まれるかもしれない。そうなれば、近年欧米を中心に起きているアニマルウェルフェア(家畜の生活の質を高める飼育)の動きともリンクできます」

コーンテックのAI技術は
車の自動運転と近い

一般的に、畜産業は農業以上に技術の進化が遅れていると言われている。そんな業界にAIを持ち込むという発想の源は、吉角社長がかつてECサイトで車のバッテリーを販売していたなどIT畑出身という側面が大きい。

「車の燃費も、50年前ならリッター4~5kmが当たり前でしたが今や常識外れ。それはコンピューターのシミュレーション技術とデジタル制御によるものです。その裏側にはCPUの進化がある。コンピューターの精度が高まるほどに処理量の桁が変わり、試行回数が多くなって効率がアップする。畜産においても、生体をデジタル化しようとしてもこれまでは技術自体がなかったんです。でも、近年は高性能カメラも安くなり、いろいろと安価にできるようになった。弊社が取り組んでいるAIの領域も、車の自動運転に近くなっています。難易度は高いですが、そのぶん独自性が出るので面白い状況になってきています」

世界的に見ても、AIエンジンそのものを作ろうとし、サービスをクラウド化させようとする試みはほぼない。

「カメラや数値、データ、豚の飼育などは地域性もなく非言語の領域なので海外との垣根はないと思います。いまは豚が多いですが、今後は牛、鶏、馬、羊、山羊などに広げていければと考えています」

畜産業界を変える試みに
多くの個人投資家が賛同

この先見性と確固たるヴィジョンこそが、畜産業界に留まらず広く一般から注目されている理由でもある。その証拠に、ベンチャー企業への投資を通じて(未公開)株主として応援ができる日本初のマッチングサービス「FUNDINNO(ファンディーノ)」にて、2回の募集に対し500人、総額約5000万円の資金を調達している。

「農業や畜産業は業界が古いこともあって、マネーとの相性が悪いんです。そんな状況下で、VC(ベンチャーキャピタル)の都合で価格を決められるよりは、FUNDINNOのようなオープンな場所で、一般の方に買ってほしかった。市場が決めた価格のほうが正しいと思っていますから。ですので、自分たちの力を試す意味でも、よりパブリックになる意味でも、半IPOのようなかたちでスタートラインを切らせてもらいました」

結果を見れば、アグリテックの世界に関心を持っている人たちは想像以上に多いことがわかった。

「畜産スマートカメラの有料版は11月にリリースをする予定です。今回わかってきたのは、餌の領域だけではなく、これまで人間の目でおこなってきた観察や飼育の多くをカメラで置き換えられるということ。そうなると、必ずしも自家配合プラントとセットで販売しなくてもいい。また、実証実験を重ねることで、自分たちでは考えつかなかった発想が生まれてきています。これからどんなことが起きるか、私たちも楽しみです」

(text: 富山英三郎)

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