テクノロジー TECHNOLOGY

未来のものづくりはコラボレーションから生まれる!「ダッソー・システムズ」のプラットフォーム 前編

富山英三郎

全世界で25万社以上の法人顧客を抱え、世界1万7000人の社員数を誇る、フランス最大のソフトウェア会社『ダッソー・システムズ』。技術革新のみならず、積極的な M&A で成長してきたビジネス界では名の知れたビッグカンパニーだ。しかし、製造業をはじめとした B to B (企業間取引)、B to B to C(企業が個人消費者向けに商売するのを手伝うビジネス)向けのサービスが中心で、しかもソフトウェアという目に見えないものを提供しているために、一般にはあまり馴染みがない。 そこで、まずは同社の歴史やサービスの歴史を踏まえながら、これからのものづくりが進んでいく未来について、アカデミアプログラムディレクターのフィリップ・コカトリックスさんに話を訊いた。

地球上の9割の航空機は
同社のソフトで設計されている!?

ダッソー・システムズの設立は1981年。もともとは、フランスの戦闘機『ミラージュ』や、ビジネスジェット機の『ダッソー・ファルコン』の製造で知られる、ダッソー・アビアシオン社の開発部門であった。

1960年代、設計といえば製図道具を使い手で線を引いていたが、メインフレーム(汎用大型コンピューター)の登場により、コンピューターで設計をおこなう動きが加速。ダッソー・アビアシオン社も1970年代後半より、設計や風洞実験ができる独自のソフトウェアを開発することとなる。その後、自社ソフトを一般販売することになり、分社化して誕生したのが『ダッソー・システムズ』というわけだ。

そんな経緯もあり、ダッソー・システムズ = CADソフトの会社として認知している人は多い。もちろん、現在も3D CAD設計ソフト『CATIA(キャティア)』は主力製品であり、特に航空産業では広く使用されている。地球上で飛んでいる9割の航空機はこのソフトを使って設計されていると言われるほどだ。

1989年、設計されたパーツを
パソコン上で組み立てることに成功

「当初は、CADソフトを使って各種パーツを設計すること自体が革新的でした。その後、それらのパーツをデジタル空間の中で組み立ててモックアップ(試作品)まで制作できる、“3D DMU“という手法を1989年に打ち出します。ボーイング777は、ダッソー・システムズのDMUを全面的に使用して設計された最初の商用航空機でした。」

一般的に、製品を販売するまでには各種の検証が必要である。そのためには、フィジカル(物理的)な試作品を作るのがセオリー。しかし商用航空機のような試作品を制作するには、膨大なお金と時間を要する。しかも、仕様変更があれば、新たに試作品を作りなおさなければならない。しかし、デジタルモックアップであれば、設計変更や検証をデジタル上のデータモデルを使って行えるため、お金も時間も大幅に削減可能だ。

CATIA Version 4では、製品の完全なデジタルモックアップ(DMU)を実現し、仮想空間での製品の検証や確認が可能に。

他部署との連携を可能にした3D PLM

「10年後の1999年には、3D PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)を打ち出しました。これは、設計から所有まで、製品のライフサイクル全体を管理できるシステムです。各種実験やシミュレーションをデジタル上でおこなうのみならず、製造から販売後のメンテナンス、廃棄処理の方法までもデジタルデータを連携させながら管理できるようになりました。それまで、企業の各部門(設計、解析、製造など)は、それぞれ専門性が高いゆえにサイロ化(他部署と連携できずに孤立化)してしまう問題がありましたが、PLM によって各工程をシームレスにつなげて連携することができるようになりました」

従来、各部署の設計や解析といったデータはそれぞれのソフトでおこない、仕様書のようなファイルの受け渡しと変換が必須だった。しかし、お互いの分野が専門的すぎるがゆえに、各部署の連携がうまく行かず、ファイルの散逸やファイル変換に伴うミスがおこるという欠点も。PLM はこうしたサイロ化を回避しミスを削減できるという画期的なものであった。

現在はVR でクルマのドアの開閉音も確認可能

「2012年にはさらに進んだ、3DEXPERIENCE プラットフォームを発表しました。こちらも主な目的は、連携時のサイロをなくすというものです。さらに、製造部門のみならず、マーケティングやセールス、パートナー会社、さらにはユーザーまでもが同時にコラボレーションできるようになりました」


ダッソー・システムズが提唱する産業の未来、インダストリー・ルネサンス。「映像内の富士山とチューリップ以外は、ほぼダッソー・システムズのソフトウェアで作られたもの」とは広報担当者の弁。

EXPERIENCE(エクスペリエンス)とは経験や体験という意味。クラウド化されたプラットフォームの中心には、プロジェクトが目指すべき「エクスペリエンス」があり、それは3Dのデジタルツインで表現される。

「VR を使えば、クルマの運転席からの視界や、ドアの開閉音までも確認できます。また、高速道路を走っているときのエアコンの音と、田舎道でのエアコンの音の違いも確認できます。これまで、音に関しては何デシベルといった数値で表現されていましたが、マーケティングやセールスの人間は数値を見てもよくわかりません。逆に、ユーザーが納得する音のレベルがどの程度なのかは、技術の人間だけでは判断に迷うこともある。誰もが参加できるプラットフォームを設け、極めてリアルに近い3Dデジタル・モックアップを使いながら、音や質感などの細部も含めて経験する。そうすることで、部署を超えて問題点を議論することができます。ユーザーの体験は、音や質感、機能など、すべてを含む総合的なものですから」

プラットフォーム化およびデジタルツインの革新性は、部署を超えて対等&スピーディに話し合える点にある。しかも、物理的な試作品を作る前にあらゆる問題点を確認できるので、お金もかからない。もちろん、仕様変更もパソコン上でできるので簡単だ。製品の発売後も、ユーザーがネットに書き込んだ問題点などを即座に検討して対応することもできるなど、これからの製造業に必要な機能が詰まっているのだ。

後編へつづく

(text: 富山英三郎)

(photo: 増元幸司)

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サプリメントもオーダーメイドの時代!「healthServer」とは

Yuka Shingai

ビューティやヘルスケア用品におけるパーソナライゼーション化がめざましい。CES2020でもロレアルやP&Gなど業界大手が顧客一人ひとりに向けたサービスを発表したが、日本国内では機能性表示食品市場の拡大と合わせて、サプリメントのパーソナライズ化が進んでいる。そこでIoT技術を使ったオーダーメイドのサプリメントを抽出するサーバーサービスを始めた会社がある。『自分だけの特別な1杯』はどのようにしてできるのだろうのか。

利用者の身体の情報を取得し、
ミリグラム単位で最適な一杯を

個人のデータに基づき、最適なサプリドリンクを提供するオーダーメイドサプリメントサーバーサービス「healthServer」をはじめたのは、東京都文京区に本社を置くドリコス株式会社。、本体に内蔵されいる生体センサーや連携した機器からその人の身体状態や特性などの情報を取得し、その場でオーダーメイドサプリメントを提供するサーバーの開発を成功させた。

healthServerフィットネス業界向けモデル

「healthServerならすべての人にその場でオーダーメイドサプリメントを提供することが可能」と話すドリコス株式会社・中川怜氏

利用方法はいたってシンプル。サーバーの両端に設置された生体センサーに両手の親指を約20秒間当てると脈拍から自律神経バランスを推定し、必要な栄養素が推算される。データを基に内蔵のカートリッジからビタミン、葉酸、アルギニンなどの粉末状のサプリメントがミリグラム単位で配合され、“今の自分に最適な一杯” として、その場で抽出されるというもの。

甘味料など添加物を限りなく省いたピュアな栄養素にこだわっているため、飲みにくさを感じた場合は水やジュース、ヨーグルトなどと混ぜて摂取することもできるという。必要な栄養素の推算については医学博士と管理栄養士に監修を依頼、独自のアルゴリズムを構築し、推算を可能にした。

現在ヘルスサーバーは、個人向け販売と法人販売の両方に販売をしている。個人向け販売は、百貨店や家電量販店を通して販売しており、法人販売はhealthServerに専用タブレット端末を連携したモデル(冒頭写真)をフィットネス業界をはじめとしたBtoBtoCのロケーションをメインターゲットして販売を行っている。

抽出されたサプリメント

専用のスマートフォンアプリやタブレット端末との連動により、オーダーメイド性を更に追求することができると言う。生体センサーの脈拍の情報に加え、利用者の年齢、性別や身長・体重などの基本的な身体情報に加え、「ダイエット」「疲労回復」「美容」など、サーバーの利用目的やその日の天気などを連携することで、より精密にパーソナライズされたサプリメントを抽出してくれる。

アプリ画面

「ユーザーの取り組みに効果実感があるかを測るために、アプリ上では定期的にフィードバックをもらうための質問ダイヤログを表示します。効果を得られていないという回答があれば原因を考え、配合を変えていって効果実感を得られるまでチューニングし続けるんです。ユーザーの健康状態を測定するアプリやサービスはこれまでもありましたが、そこから一歩踏み込んだアクションや、お客様に寄り添う提案まで行えることが『healthServer』の独自性かつ強みですね」と中川氏。

また、ドリコス社はhealthServerとは別に、葉酸サプリ売上No.1(※)を達成してきた「BELTA」を手掛ける株式会社ビーボと協業して展開する新商品「fem server」の販売を開始する。「fem server」は、生理周期のホルモンバランスや生活習慣、悩みと同期した配合で、最適なサプリを専用本体から摂取できるサービスである。栄養素はヒアルロン酸、イソフラボン、コエンザイムQ10、コラーゲンなどの数多くの栄養素を展開、妊娠や出産、生理などホルモンバランスの影響で体調の変化が起こりがちな女性のケアを目指す。

(※)2018年4月 TPCマーケティングリサーチ株式会社調べ

女性のケアを目指す「fem server」

高齢者の健康支援にも意欲

また、フィットネス業界などに限らず今後は介護施設への導入も目指したいと話す。

「医師からの監修を受けるなかで、加齢により筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態のサルコペニアや、身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなるフレイルを未然に防ぐためには、アミノ酸をはじめとした栄養素を効率よく摂取することが重要なことも分かりました。高齢者一人ひとりに寄り添う、サプリメントの提供はかなり需要があると考えています」(中川氏)。だが、課題も残る。「なにぶん現在の『healthServer』はスマートフォンやタブレット端末との連携を前提にしているため、高齢者が手軽にに操作できるかと言えば難しい部分もあります。誰もが手軽に健康に近づくことができるようなアプローチの仕方はもう少し工夫したいところです」

サプリメント摂取の是非については、医療従事者の間でも統一の見解がなく、必要な栄養素は食事で摂取できるという意見もあれば、食事だけでは補えないから積極的にサプリも摂っていくべきという意見もある。新しい論文やエビデンスが次々に発表され、常識と思われていた考えが絶えず変わっていくなかで、ユーザーのレビューがサプリメントの市場を大きく動かす可能性もあるのはIoTならではの作用と言えるだろう。

化粧品などのパーソナライゼーションも進む今、『healthServer』の技術も今後サプリメントだけではなく新たな分野へ発展していくかもしれない。

(text: Yuka Shingai)

(photo: 増元幸司)

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