福祉 WELFARE

『耳で聴かない音楽会』。落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団が抱く夢が、異色のコラボで実現

田崎 美穂子

2018年4月22日(日)、東京国際フォーラム・ホールで『耳で聴かない音楽会』が開催される。それは、デフサッカー(聴覚障がい者のサッカー・フットサル)仲井健人選手のつぶやきがきっかけだった。「宇佐美雅俊氏、落合陽一氏が開発した「LIVE JACKET(服にスピーカーが埋め込まれ、聴覚・振動を通して体全身で音楽を感じ取る)」着たんだけど、耳の聞こえない僕ら皆、気づいたらリズムに乗ってしまってました。音楽に親しみのない僕らは欲しいなって終始言い合ってたとさ笑」

耳が聴こえる聴こえないにかかわらず、誰もが心に音楽を持っている。創立63年を迎える日本フィルハーモニー交響楽団は、多くの活動を通して「聴覚障がいのある人とも一緒に音楽を楽しむ方法はないか」と考えていたが、楽器の数も多いライブやオーケストラコンサートではその実現は難しく、聴覚障がいのある方にリアルに音楽を感じてもらえるシステムづくりはなかなか現実のものとなっていなかった。しかし、仲井選手のつぶやきで、これを着れば聴覚障がいのある方にも音楽が届けられるのではと、ジャケットの開発者である筑波大学准教授 落合陽一氏(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社)と(株)博報堂にコンタクトし、今回のプロジェクトが動き出した。デジタルネイチャー・ダイバーシティをひとつのテーマに研究を進めていた落合氏との、異色のコラボレーションが実現することとなった。

『LIVE JACKET』を元にしてオーケストラ版に改良された『ORCHESTRA JACKET(オーケストラ ジャケット)」は、特殊ジャケットに数10個の超小型スピーカーを搭載、身体中に音楽が響くまさに「着る音楽」。今回『耳で聴かない音楽会』では、ジャケットを1~2着ご用意、さらにジャケットの仕組みを簡易化したボール型の機器『SOUND HUG』を導入し、聴覚障がいのある方にこれを持ってコンサートを「聴いて」いただけるとのこと。まるで音をハグするように、音のリズムを振動で感じられるうえ、ジャケットより安価に量産できるのが強みである。

『ORCHESTRA JACKET』も『SOUND HUG』も、まだまだ完璧なものではなく、実験段階。このコンサート自体が、約50個もの装置を体験できる「壮大な実験」の場となる。聴覚障がいのない人も一般席(SOUND HUGはなし)で演奏を聴くことができ、コンサートの構成にも工夫が凝らされ、聴覚障がいのあるなしに関わらず会場全員が一緒に楽しめる「バリアフリーな音楽会」を目指しているとのこと。

また、今回のプロジェクトは、コンサート音響機材を充実させるため、Readyfor でのクラウドファンディングにも挑戦(https://readyfor.jp/projects/15399)。あなたの応援で、開発に携わった人たちの想いや未来が詰まったプロジェクトを実現させることができる。『耳で聴かない音楽会』は、初めての試みだけに、『SOUND HUG』の開発費はもちろん、コンサート会場の音響整備にもかなりの費用がかかる。支援締め切りまであと16日、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

音楽会に先立って、4月14日(土)に渋谷ヒカリエにて、トークイベントも予定されている。ナガオカケンメイ氏(D&DEPARTMENT代表)を聞き手に、落合陽一氏と日本フィルが今回のプロジェクトへの思いを語る。関係者から直接話を聞ける貴重なチャンス。

Readyfor《耳で聴かない音楽会》テクノロジーで挑む、音楽のバリアフリー
落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団
https://readyfor.jp/projects/15399

落合陽一・日本フィル×ナガオカケンメイ トークイベント
http://www.d-department.com/jp/archives/people/54389

(text: 田崎 美穂子)

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地下に潜む日本の力はいかに。世界も注目の東京メトロ【2020東京を支える企業】

宮本さおり

日本が誇るもののひとつ、鉄道。最近、ネット上では正確に、安全に動く日本の鉄道に舌を巻く外国人観光客のコメントが話題になった。大都会東京の鉄道を地下で支えるのが東京メトロ。東京2020オリパラでは、会場を繋ぐ交通網としての役割に期待がかかる。メトロはどんなことをするのか。東京の地下で繰り広げられている構想を探る。

オリパラ会場への足となる東京メトロでは今、大規模な工事が進んでいる。主要駅で進めているのはホームドアの設置。2020年度末には全体の83%にあたる148駅で整備が完了する予定だ。また、バリアフリー化の一環として進める「エレベーター1ルート計画」は、予定では2018年度末までに全ての駅で整備を完了、地上へ出るためのバリアフリー化が一層進む見込みだ。

聴覚障がい者も気兼ねなく使える

使い方は簡単。まずはアプリをダウンロード

いくつもの路線が入り組む東京の地下鉄駅では、目的地の近くの出口が分からずに、地下通路で迷うこともある。そんな不便を解消してくれるアイテムの実証実験が今年はじめ、表参道駅周辺で実施された。「かざして駅案内」は、事前に東京メトロのアプリをダウンロード、目的地を設定して駅構内にある「i」マークにスマホをかざせば、目的地の最寄りの出口をアプリ上で表示してくれるというものだ。これならば、人に道を聞くことに気兼ねしていた聴覚障がい者も目的の出口にスムーズに出られそうだ。NTTと共同で開発に取り組んでいる。

これだけでは終わらないのが日本のすごさ。こうしたハード面の強化と同時に急ピッチで進めているのが、「人」の力の強化。

「介助士」研修を社内で実施

専門家を招いて資格取得講座を開講

車いすユーザーや視覚障がい者などが電車に乗るためには、いくつもの介助が必要になる。例えば、車いすの場合、電車とホームの間に溝があるため、それを埋める取り外し式のスロープを設置といった支援がいるのだ。また、目の不自由な人の場合は駅により、改札までサポートが必要な場合もある。こうしたニーズに的確に応えるために、介助をスムーズに行うための資格である「介助士」の資格を積極的に取得させようと社内でも研修をはじめたのだ。2017年度中を目途に全駅社員がこの資格を取得の見込み。おもてなし力に磨きがかかる。加えて、効率的に移動の補助ができるようにと、目の不自由な乗降者が多く利用する高田馬場駅など7駅にハンズフリー型インカムも導入した。東京メトロ担当者は「高田馬場駅近くには、点字図書館等の施設があり、目の不自由なお客さまのご利用が多くあります。ハンズフリーインカムを利用することで、情報共有の迅速化、安全確保上の連携強化が図られるようになりました。」と話している。

ここまで徹底したサービスを目指す地下鉄は世界でもまれ。東京2020オリパラでは、世界のあらゆる人々に安全で安心、そして快適な移動を提供することになるだろう。

(text: 宮本さおり)

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