テクノロジー TECHNOLOGY

子どもの地頭も鍛えられる?!脳を鍛えながら計測『ブレインフィットネス』

HERO X 編集長

実は筋肉のように鍛えることができるとも言われる脳。ゲーム感覚で脳を鍛える『脳トレ』が一大ブームとなったのは記憶に新しいところ。この『脳トレ』の考案者が今回注目したのが脳の活動具合の〝見える化〟だった。

人間の体の不思議はいくつもあるが、脳はその代表格と言ってもいいだろう。自分の脳がどのような仕組みになっているかを知る人は少ないのではないだろうか。脳は大きく分けて「大脳」「小脳」「脳幹」の三つの部分に分かれており、そのうち80%を大脳が占めている。この大脳には前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の領域が存在し、それぞれ役割が違うのだ。例えば、前頭葉は思考や運動などと関わりが深く、言語を発するのに使われている部分。頭頂葉は手足の感触や動きを知覚するための機能をもつと言われている。

この前頭葉の中でも機能は分かれており、前頭葉の中にある前頭前野は感情をコントロールすることや、考えること、アイデアを出すこと、判断すること、応用することなど、人間らしい部分を多く司るところとなっている。

東北大学と日立ハイテクで立ち上げた(株)NeUでは、前頭前野を光トポグラフィ(NIRS)という技術を使い計測、画面に出される問題に答えることで脳がどのくらい反応しているのかを計ることで、脳トレの効果を見える化できるようにした。その名も「ブレインフィットネス」。

光トポグラフィとは、頭部に3㎝の等間隔で光源と受光センサーを配置することで脳内のどこに変化が起きたかを計測、可視化するもの。「ブレインフィットネス」ではこの光トポグラフィを使った脳センサーをおでこに装着することで、前頭前野の活動具合を計る。

開発に関わったのはあの『脳トレ』を手がけた東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太教授だ。ゲームをやるだけだった脳トレでは、その日のスコアなどは分かるものの実際にどの程度鍛えられたかを見ることができなかった。同じ人間といえどもその日のコンディションによってもスコアは変わるため、スコアだけでは脳活動がどの程度行われたかを可視化するのは難しい。しかし、この光トポグラフィ技術を活用することで、脳のどの部分に変化が起こったのかを見ることができるため、出された問題というトレーニングがどの程度脳に効いているかを視覚的に知ることができるようになる。

同社は認知症予防をはじめ、子どもの地頭向上や、ビジネスマンの生産性アップなどへの活用が期待されると伝えている。ダイエットでも結果が可視化されている方がトレーニングのモチベーションを保ちやすいと言われるが、脳トレもパーソナライズ化されたデータとして結果が見えるとなれば、やる気はアップしそうだ。

(text: HERO X 編集長)

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スポーツから保育まで。体の動きや状態を計測するスマートアパレル「e-skin」の可能性

浅羽 晃

東京大学発のスタートアップである次世代スマートアパレル e-skinは、伸縮性エレクトロニクスの技術を用いた“着る”インターフェイス。ジャイロセンサ、歪センサ、バイタルサインのセンサなどの各種センサを適所に配置することにより、体の動きや状態を、正確に計測し、通信することができる。用途は、スポーツのフォーム解析、リハビリテーションのサポート、乳幼児の午睡の見守りなど幅広い。株式会社Xenomaの網盛一郎代表取締役CEOにお話をうかがった。

ドイツの人工知能研究センターとともに
高精度モーションキャプチャを実現

場所を問わず、リアルタイムで高精度のモーションキャプチャを取ることができる。

東京都大田区の工場アパートに入居するXenomaのオフィスを訪ねると、まず目に入ったのはハンガーに吊るされたシャツやスパッツ、マネキン、裁断の作業台などだった。オフィスを見る限り、IT企業というよりは、アパレルメーカーのイメージである。この意外性は、Xenomaが開発した次世代スマートアパレル e-skinの特質を象徴していると言えるのかもしれない。e-skinは、着心地のいい衣服でありながら、その実、さまざまなデータを採取・通信できるインターフェイスなのだ。

着脱式のハブ(黒い円盤状のパーツ)を外せば水洗いできるので、繰り返し使える。

「僕は東京大学のJST ERATO(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究)、染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトで伸縮性エレクトロニクス開発を行っていました。次世代スマートアパレル e-skinはその技術を用いたものです。通常、電気の流れる物質は、金属がそうであるように、あまり伸びないのですが、Xenomaの伸縮性エレクトロニクスは1.5倍くらい伸びます。そのため、服に組み込んでも壊れることがありません」

ひと言で言うなら、次世代スマートアパレル e-skinは、電気信号を伝えることのできる服だ。つまり、脈拍、温度、呼吸といったバイタルサインのセンサ、ジャイロセンサ、歪センサなどの各種センサを配置することにより、体の動きや脈拍、体表面温度、呼吸などの体の状態を、服を着たままで正確に計測することができる。たとえば、スポーツやスポーツ医療の分野で役立つモーションキャプチャは、e-skinの得意とするところだ。

「モーションキャプチャは、ドイツのDFKI(ドイツ人工知能研究センター)というところといっしょに研究開発しました。彼らは地磁気を使わないモーションキャプチャのアルゴリズムを持っていて、それと僕らのe-skinを組み合わせると、ほぼリアルタイムで、どんな場所でも高精度のモーションキャプチャを取ることができるのです」

現在、モーションキャプチャはカメラを用いる方法が主流となっているが、e-skinを用いるとカメラにはないメリットが得られる。

「カメラの場合、撮影のできる場所であることが必須条件であり、また、そのような場所では運動に多少の制約が出ることもありますが、e-skinなら場所や動きの制約はありません。マラソンのように、長距離を移動する運動でもパフォーマンスの解析ができます」

午睡チェックのサポートに
54の保育園で1500台が稼働している

高齢化社会が進み、より重要性が増しているリハビリテーションの分野でも、e-skinは有効利用されることになるだろう。

「日本ではまだ顕在化していませんが、世界的には、在宅リハによる運動機能の低下が問題になっています。病院でリハをして運動機能が回復し、家に戻っても、その後のリハが不十分であったり、不適切であったりすることで、運動機能が低下してしまうのです。在宅でもe-skinを着用してのリハなら、理学療法士さんがデータを見ることによって介入することができますから、適切なリハを続けることができます。日常の行動を見ながらトレーニングプログラムを提供することができれば、運動機能の低下は防げるはずです」

保育の分野に目を向けても、e-skinは有益性が高い。乳幼児の死亡原因として多い乳幼児突然死症候群(SIDS)は、何の予兆や既往歴もないまま乳幼児が死に至る原因不明の病気で、窒息などの事故とは異なる。SIDSの予防方法は確立していないが、厚生労働省が真っ先に挙げる予防法は、“寝かせるときは仰向けに寝かせる”ということだ。データ上、仰向けのほうがSIDSのリスクは低いのである。

「e-skinであれば、赤ちゃんの姿勢を常に見守ることができます」

東京都福祉保健局などの行政は保育施設に対して、SIDSの予防と睡眠中の事故防止のために、“0歳児は5分に1回、1~2歳児は10分に1回、必ず1人1人チェックし、その都度記録すること”という指針を出している。乳幼児の生命を守るためには必要な策だが、保育士の仕事量はその分、増えている。

「以前は添い寝をして寝ついたら、自分の書類仕事ができたのに、いまは5分に1回見て、うつ伏せだったら仰向けにして、記録する必要があります。書類仕事は後回しになるので、残業時間は確実に増えていると思います」

0歳児は概ね3人に保育士1人、1、2歳児は概ね6人に保育士1人という配置基準もあり、午睡の安全を確保するためにはかなりの労力が必要だ。見守りが自動化できれば、保育施設の労働環境は少なからず改善できる。

「オムツに取り付けるタイプのセンサが、すでに54の保育園で、1500台くらいが稼働し、毎日、午睡のデータを取っています」

日立製作所や紳士服のAOKIなど
有名企業とのコラボレーションも話題

e-skinは着心地のいい服でもあるので、被験者に負担をかけずにさまざまなモニタリングができるのも特徴だ。たとえば、睡眠の科学的研究とは親和性が高い。

「ドライバーの眠気を察知し、事故を防止することができると考えています。カメラによって眠気を察知する方法もありますが、これだとマイクロスリープを見逃してしまう。心拍の間隔変動や体温、呼吸、上体の動きなど、総合的に見ることによって、察知の精度は高くなるのです」

またe-skinは、IoTで利用することもできる。

「温度や湿度が不快で眠りの質が悪いときは、e-skinがバイタルサインや動きによってそれを察知し、エアコンを調整する。これは一例ですが、e-skinはインターネットとつながっている機器との連動ができるのです」

e-skinに搭載されたすべてのセンサは着脱できる1個のハブによって管理される。数多くのセンサを1つにつなげるこの技術もXenomaならではの技術だ。センサと配線には防水加工がされているため、ハブを外せば洗濯も可能だという。

「一般的にウェアラブルのデバイスは、1デバイスに電池が1個ついて、通信機能もそれぞれについていますが、e-skinの電池と通信機能はコントローラ的なハブに搭載しています。1個のハブを充電すればいいのですから、管理は楽です」

e-skinの技術は確立しているので、今後の展開の鍵を握るのは、市場の開拓であり、他企業とのコラボレーションだ。

「ローカルミニマムに陥りがちになるので、会社の陣容においても、ビジネスの選択肢においても、多様性を意識しています」

すでに寝具メーカーの西川、紳士服のAOKI、日立製作所などとコラボレートしている。次世代スマートアパレル e-skinが身近な存在になる日は近いのだろう。

網盛一郎(Ichiro Amimori)
株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO。1994年、東大院農・農芸化学専攻修士課程修了後、富士フイルム株式会社入社。2012年、同社を退職、フリーランスとして大学や企業と共に新規事業開発を行う傍らで、東京大学大学院情報学環・佐倉統研究室において科学技術イノベーション論として「先端技術をどうやって社会価値に結び付けるか」や「人と機械の関係の未来」を研究し、その実践として2014年より東京大学・JST ERATO染谷生体調和エレクトロプロジェクトに参画、2015年11月にXenomaをスピンオフ起業。2006年、米・ブラウン大院卒(Ph.D.)。

(text: 浅羽 晃)

(photo: 増元幸司)

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